社長追放でも残る セイコー名誉会長の影
“議事録ない”経営会議 名誉会長が大半を発言
驚くべきことに、10の事業会社を持ち、東証1部上場にも上場する同社には、重要な人事や投資戦略を議論する会議が実質上なかった。代わりに「経営会議」と称される不定期の会合があるが、議事録はなく、子会社役員は決定事項の報告を受けるのみだった。そこには経営に携わっていなかったはずの89歳の禮次郎氏が堂々と出席し、時には会議の半分以上も活発に発言していたという。
非創業家の役員にとって、禮次郎氏がHDの株式約1800万株(9・6%)を保有する大株主であるという事実は無視できない。ある役員は「特に鵜浦氏の逆鱗に触れるのを恐れみな口出しを避けていた」と振り返った。禮次郎氏の元秘書だった鵜浦氏が、禮次郎氏に重用され、異例の出世を遂げたとすれば、その証言も現実味を帯びる。人事すら取締役会ではほとんど議論されなかった責任は、長年放置してきた前経営陣全員にある。
クーデターを決行した翌朝、和光では、管理職以上の社員約40人が社員食堂に集合した。
和光の中村克新社長ら新経営陣5人が並び、和光取締役でもある真二氏が謝罪した。「前副社長として和光内部のパワハラを止められなかったことを本当に申し訳なく思う。休職している人は必ず復職させる」。涙を浮かべる従業員もいたという。
前経営陣の怠慢を助長した一因には労組の力不足もあった。委員長が抽選で決まる和光労組は、経営陣が「強く出るとすぐにシュンとしてしまう」と洩らすほど控えめだ。事業会社の労組を率いるセイコーグループユニオンの中村昇造委員長は、「個々の労組はもっと強くならねばならないし、経営陣も話し合いの場を増やしてほしい」と強調した。