ワクチン接種の大混乱に浮かぶ日本の致命的弱点 政治家のリーダーシップや官僚の保身以外にも

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もっとも、本来製薬開発で日本は世界的に見ても、スイスと並んで優れた技術を持っているといわれる。にもかかわらず、スイスと日本はコロナのワクチン開発には揃って手こずった。今回のコロナのワクチン接種では、最速で開発したファイザーも、2番目となったモデルナも遺伝子分析による開発技術を使った「mRNA」ワクチンで成功した。日本の第一三共やアンジェスも、mRNAによる開発を試みているが、もともと日本は官民を挙げてワクチン開発には消極的だったと指摘・分析する見方も多い。

日本独自の薬事検査で2カ月の出遅れ?

日本には、1970年代に天然痘による副作用をめぐる集団訴訟があり、天然痘は絶滅に至るものの、政府自身が予防接種に消極的になったという経緯がある。

1990年代には、麻疹、おたふくかぜ、風疹の3種混合ワクチンが、小児無菌性髄膜炎の原因と指摘されて任意接種に切り替えた。さらに、子宮頚がんを予防するHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンも、海外ではその有効性が高く評価されているのに、現在の日本では集団訴訟に発展したために、積極的な摂取推奨を取り下げている。

ようするに、厚生労働省や政府は、訴訟のリスクを重視して、全体の利益=予防接種の方針を曲げてしまう。今回のコロナワクチンでも、なぜか日本は独自の薬事審査にこだわった。たとえば、ファイザーのワクチンに関しては、アメリカでは昨年12月10日にFDA(食品医薬品局)は、緊急使用の許可を出している。

イギリスでも2020年10月に承認申請が行われ、12月2日には承認が下りている。2カ月弱で承認申請にこぎつけたということだ。

日本はどうかというと、2020年12月18日に承認申請が行われたものの、ファイザー製ワクチンが正式に承認されたのは2021年2月14日となった。なぜイギリスで12月に承認が下りている同じ薬が、日本では2月になってしまったのかということだ。これについては、欧米とは違う基準での審査を日本でも行わなければならず、独自の審査が行われたとの報道がなされている。

通常、ワクチン開発の臨床実験では第1相から第3相までの段階に分かれて、それぞれ100人未満、数百人単位、数千人単位と段階を踏んでいくのだが、今回の審査では日本独自の審査として160人に対して臨床実験を行い安全性や有効性に関するデータを揃えたといわれる。

筆者は医療の専門家ではないことをまず断る。そのうえで、160人という数字が「とりあえず審査はやった」というアリバイ作りにしか思えないのは筆者だけだろうか。政府主導で、早期に積極的なワクチン接種を実施していれば、また違った展開になったはずだ。

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