ワクチン接種の大混乱に浮かぶ日本の致命的弱点 政治家のリーダーシップや官僚の保身以外にも

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ワクチンが調達できなかった点について、大きく分けて日本には2つの問題がある。ひとつは、国内の製薬会社がいまだにワクチン開発に手こずっていること。これは、「日本のワクチン開発が企業任せで政府の後押しがなかったため」という一言で説明できる、という報道が多い。

ワクチンは「安全保障の切り札」にもかかわらず、政治家や行政に安全保障の認識が欠けていた、という視点だ。日経新聞によると、アメリカはトランプ政権が「ワープ・スピード作戦」と称して、バイオ医薬品開発の「ノババックス」に16億ドル(約1720億円)の助成金を出している。モデルナも、アメリカ生物医学先端研究開発機構(BARDA)から最大で4億8300憶ドル(約520億円)の助成金を受け取ることで合意したとウォール・ストリート・ジャーナルが報道している。

アメリカ政府が、ワクチン開発に補助金を出した金額はBARDAを通したものだけでも192億8300万ドル(2兆0825億円、2021年3月2日時点)に上ると、アメリカ議会予算局が公表した資料で報告されている。

イギリスも、2020年5月にオックスフォード大学に対してワクチン開発のために6億5500万ポンド(約1000億円)を支援すると発表している。ちなみに、ファイザーはトランプ政権から資金を受け取らなかったことはあまり知られていない。科学者を政治的な圧力から守るためにアメリカ政府の補助金を受け取らずに、研究開発費は全額自前で賄ったとニューズウィークが伝えている。

日本政府も補助金は出しているが…

一方、日本の厚生労働省はどうか。定期的に「新型コロナワクチンの開発状況について」というレポートを発表しているが、この3月22日の更新情報によると日本の国内ワクチン開発は、塩野義製薬、第一三共、アンジェス、kmバイオロジクスなどの各グループが開発を急いでいるが、いまだに実用化のめどは立っていないそうだ。日本最大の製薬会社である武田薬品はノババックスと委託業務契約を結び、今年の下半期から年間2億5000万回分以上のワクチン供給を実施する予定と報道されている。

塩野義製薬のグループには、生産体制等緊急整備事業から223億円が援助され、第一三共グループにも同じく60億3000万円の補助が行われている。アンジェスのグループは同93億8000万円、KMバイオロジクスは同60億9000万円が補助されている。日本政府も補助金は出してはいるものの、桁が1つ違う印象を受ける。NHKでは、こうした政府の対応を「平時対応」という言葉で、東大医科学研究所教授の言葉として取り上げている。

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