「大麻の医療利用」が世界中で加速する納得理由 てんかんや慢性の痛みなどへの効果が期待

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世界で進む「大麻の医療利用」について紹介(写真:iStock/ArtistGNDphotography)
大麻は過去には日本を含む世界各地で民間薬・漢方薬などとして用いられていた。一度廃れたはずの「大麻の医療利用」は、なぜ今になって世界的に再流行の兆しを見せるのか? 世界で進む大麻の医療利用の実態を、書籍『日本人のための大麻の教科書「古くて新しい農作物」の再発見』より一部抜粋・再構成してお届けする。

明治時代になり、日本社会は西洋社会のさまざまな優れた制度や技術を積極的に導入します。その一つに、いわゆる西洋医学がありました。

漢方を含む東洋医学が古代中国で生まれ、体の不調に対し、全身や内側からアプローチする方法である一方、西洋医学は体の悪い部分に注目して、投薬や手術といった方法で治療していくもので、現在ではほとんどの先進国で主流となっています。明治新政府はドイツ医学を模倣し、1886年には日本国内における医薬品の規格基準書である『日本薬局方』を発行しました。

そのなかには「印度大麻草」「印度大麻エキス」「印度大麻チンキ」が収載されています。この時点で、大麻は公的な医薬品だったのです。日本国内に自生していたそれまでの「繊維型」の大麻とは異なり、海外から輸入された大麻を「インド大麻」と呼び、花穂や葉の部分は主にぜんそく薬、鎮痛薬として用いられました。これらは、『日本薬局方』に65年間に渡って収載されていました。

なぜ日本で「大麻の医療利用」が廃れたのか?

しかし、第二次世界大戦後、日本ではドイツ医学からアメリカ医学へと方針転換が起こり、日本薬局方から「大麻」の文字が消えました。これは1948年の大麻取締法によって医療使用が全面禁止になった3年後、1951年のことです。この背景には「西洋医学を勉強した者のみを医師とする」という法律の存在があり、医学教育・基礎研究・臨床のすべてが西洋医学に基づくものとなったのです。

このような紆余曲折を経ましたが、漢方は生き残りました。西洋医学を学んだ漢方医たちの地道な努力の積み重ねによって、近年では医学教育の一部にも取り入れられています。その結果、昔ながらの生薬や漢方薬が2006年の『日本薬局方 第15局改正』で正式に収載され、局外扱いであった大麻の種子・麻子仁も収載されることとなりました。

2021年4月現在、新薬承認に必須であるエビデンスが十分とは言えないものの、「古くから使われてきた」という理由で、麻子仁は正規の医薬品に格上げされたのです。麻子仁は今日においても、虚弱な人の常習性の便秘や頻尿の改善の生薬として用いられています。しかし、他の部位は残念ながら現在の漢方の理論体系からは外れてしまっています。

ここまで述べてきたように、日本人は大麻を薬として用いてきました。数年前、ワイドショーで「『医療大麻』などというものはない」と断言したコメンテーターがいましたが、長く漢方薬・民間薬として使用され、『日本薬局方』には現在も大麻の種子が収載されている事実はもっと知られてほしいと思います。

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