「大麻の医療利用」が世界中で加速する納得理由 てんかんや慢性の痛みなどへの効果が期待

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また、日本の「繊維型」の大麻も、時には薬として利用されていたようです。『釣りキチ三平』などで知られる漫画家・矢口高雄の自伝的エッセイ漫画『ボクの手塚治虫』には、この民間療法を描いた貴重なシーンが出てきます。このシーンでは日射病の薬として大麻の葉が用いられていますが、まさしく「沈痛」「麻酔」の効果を発揮しています。

ちなみに、東京都の小平市には、昭和21年設立の東京都薬用植物園という施設があります。その名のとおり、多種多様な植物を収集・栽培しています。園内には厳重な管理の中、「薬用植物」として大麻も栽培しています。実際に大麻が生えている様子を見学できますので、機会があればぜひ訪れてみてください。

近年、海外の報道などを通じて「医療大麻」という言葉を聞く機会が増えています。大麻の医療利用が再び注目を集める背景には、1990年代の「エンド・カンナビノイド・システム」の発見があります。

人間は体内で「内因性カンナビノイド」という成分をつくり出し、神経や免疫バランスを調節しており、この生化学的信号伝達システムを「エンド・カンナビノイド・システム」と呼びます。内因性カンナビノイドの成分は、大麻に含まれる物質・カンナビノイドと非常に近い成分です。

カンナビノイドとは、炭素数21の化合物で100種類以上あり、よく知られているのがマリファナの主成分で有名なTHC(テトラ・ヒドロ・カンナビノール)と向精神作用のないCBD(カンナビジオール)です。これらについての詳細な説明や、その他のカンナビノイドについて気になる方は、ぜひ『カンナビノイドの科学』(2015年)などの専門書をご参照ください。

このエンド・カンナビノイド・システムの発見以降、大麻の医療利用は一気に進展しました。1996年のカリフォルニア州では、「コンパッショネート・ユース(未承認薬の人道的使用)」の観点から、住民投票による医療大麻の合法化が行われました。その後、アメリカ各州だけでなく、イスラエル、オランダ、カナダ、ドイツをはじめ多くの先進国で合法化され、研究や商品開発、法整備などが急速に進んでいます。

「医療大麻」の合法化が進む理由

大麻の医療利用には、大きく分けて二つの形態があります。一つはいわゆる「医薬品」の形態です。大麻の特定成分を抽出したもので、「カンナビノイド医薬品」などと呼ばれ、多発性硬化症やてんかんなどへの効果が期待されています。厳格な品質管理基準を満たす必要があり、医師などが管理します。

もう一つが「薬草」として用いる形態です。主に喫煙によって摂取しますが、こちらの形態を一般的には「医療大麻」と呼びます。西洋医学の「代替補完医療」という位置づけであり、マリファナの喫煙との線引きが難しいのが特徴と言えます。

日本における「医療」という言葉から想起されるイメージとは異なり、「ウェルネス」「養生」といった言葉の方が適切かもしれません。西洋医学の観点からは評価が難しい形態ですが、合法化した国や地域での適応疾患リストは、てんかん、神経性難病の鎮痛、偏頭痛、クローン病、統合失調症、リューマチ、緑内障、拒食症、認知症など多岐にわたり、この適用範囲の広さが、多くの国や地域で合法化が進む理由となっています。

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