「大麻の医療利用」が世界中で加速する納得理由 てんかんや慢性の痛みなどへの効果が期待

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また、2020年に大麻の医療利用に関して歴史的といえる出来事がありました。大麻に関する各国の規制は、国際条約に基づいて制定されていることがほとんどですが、WHO(世界保健機関)のECDD(依存性薬物専門家委員会)が2019年1月に大麻およびカンナビノイドの医療的価値を認める勧告を行ったのです。

国際的な薬物の統制には「スケジュール・リスト」というシステムが採用されており、これによって薬物の有害性や医療価値について評価が下されます。2019年のこの勧告によって、それまでヘロインやモルヒネなどと同じとされていた大麻およびカンナビノイドの評価の変更が促されました。

そして、2020年12月、国連の麻薬委員会(CND)は53カ国による投票を行い、WHOの勧告を批准しました。この結果、世界各国での大麻の医療利用に関する規制緩和や市場の動きはさらに加速することになりました。ちなみに、日本は反対票を投じました。

伊勢丹にも並ぶ「大麻原料の製品」とは?

海外の動きとは対象的に、日本は「原則的に大麻から製造された医薬品は禁止、研究も禁止」という状況ですが、まったく動きがないわけではありません。近年のトピックをいくつかご紹介します。

2007年から15年まで、大手製薬会社である大塚製薬はイギリスGW製薬と共同研究を行い、THCとCBDを含む医薬品「サティベックス」のガン疼痛などの臨床研究に大きく貢献しました。2015年に設立された日本臨床カンノビノイド学会は現在、200名を超える医療従事者や研究者が在籍しており、学会などを定期的に開催しています。

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2017年、大手分析装置メーカーである島津製作所はカンナビナイド分析装置を開発し、北米市場で順調に売り上げを伸ばしています。2019年には秋野公造参議院議員の答弁により、厚生労働省から「治験を行うことは可能」との回答を得て、カンナビノイド医薬品の臨床試験が可能となりました。聖マリアンナ大学病院と沖縄赤十字病院で、重篤なてんかん患者向けの製剤「エピディオレックス」の臨床試験がスタートする予定となっています。

また、向精神作用がほとんどない成分CBDは、近年は日本でも流行の兆しを見せています。ストレスや不眠に効果があるとされ、医薬品ではなく、健康食品や化粧品といった扱いで、さまざまなブランドの商品が広く流通しています。伊勢丹やドン・キホーテなど、大手小売店の棚に並ぶほど普及しています。しかし、雑誌などのメディアで大きく紹介される一方、消費者トラブルや過度に効果を謳った誇大広告、マルチ商法を行う業者の参入など、一部混沌とした状況となっています。

大麻博物館
たいまはくぶつかん / Taimahakubutsukan

一般社団法人。 2001年に栃木県那須に開館。 日本人の営みを支えてきた農作物としての大麻の情報収集や発信を行なうかたわら、各地で講演、「麻糸産み後継者養成講座」などのワークショップを開催している。著書に『大麻という農作物 日本人の営みを支えてきた植物とその危機』『麻の葉模様 なぜ、このデザインは、八〇〇年もの間、日本人の感性に訴え続けているのか?』(ともに自費出版)などがある。

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