不動産登記「オンライン申請」実践して見えた課題 どこまで行政手続きの電子化を進められるか
「売主・買主ともに電子証明書が当たり前に使えるようになるには、マイナンバーカードの普及率が7割を超える状況にならなければ難しいだろう」(里村氏)と日司連ではみている。
コロナ禍でマイナンバーカードの交付率は、10%台から2021年5月時点で30%を突破したばかり。政府は2023年3月末までに交付率100%をめざしているが、誰でも電子証明書を利用できる状況になるかどうかは未知数だ。
2024年をめどに相続登記が義務化
さらに所有者不明土地問題を解決するために、2024年をめどに相続登記の義務化が導入される。実家から離れて暮らす相続人たちが相続登記を行うときに、その負担を軽減するためにもオンライン申請は必要だろう。
相続登記に必要な添付情報も、不動産売買による所有権移転登記の場合とほぼ同じだが、②の登記原因証明情報として、死去した被相続人と相続人の戸籍謄抄本が必要になる。戸籍そのものは電子化されているが、戸籍謄抄本は紙のままだ。登記官が直接、戸籍のデータベースにアクセスして確認すれば良いのだが、従来の業務フローのままなら紙の書類が残る。
遺産分割相続では、相続人全員の実印を押した委任状も必要になる。所有者不明となっている土地の問題でも、所有者の名義を変更しないまま3代前から放置していると、権利者が100人ぐらいに増え、全員の実印を得るのに多額の費用がかかったという話も聞く。
権利者全員がマイナンバーカードを保有して、世界中どこに住んでいても電子証明書付きの委任状を提出できるなら、相続登記の負担もかなり減るかもしれない。
「誰もが電子証明書が利用できるようになるまでには時間がかかる。日司連としては、紙の添付情報を確認した司法書士の責任でオンライン申請を認めてくれるように法務省に対して要望している」(里村氏)。行政の役割を一部、民間が担うことで手続きの効率化を進めようという考え方だ。
行政手続きのデジタル化を進めるにしても、紙で蓄積されていた膨大な書類を一気に電子化するのは困難だろう。官民が連携しながらデジタル化を進めて、社会全体のコストを下げていくという発想が求められる。
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