不動産登記「オンライン申請」実践して見えた課題 どこまで行政手続きの電子化を進められるか

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今回のケースではトラブルがなかったとしても、法務局へ1回、金融機関2回、郵便局1回は出向く必要があった。司法書士に依頼すれば楽だったかもしれないが、それ以前に金融機関などの電子化が遅れているので添付書類をやり取りする手間は変わらない。不動産取引の業務フロー全体をどこまでデジタル化できるかが問題である。

不動産登記オンライン化の課題

「自社の売り物件では、購入申し込み、重要事項説明(重説)、売買契約締結まで完全オンライン化を実現したが、不動産登記手続きだけは相変わらず紙で処理している」――不動産テック企業のGAテクノロジーズでも、不動産登記のオンライン化は手付かずの状態だ。

モーゲージバンクのアルヒでは、2018年から大手デベロッパーを中心に住宅ローン(金銭消費貸借契約)の手続きを「ARUHIダイレクト」の名称で電子化しているが、抵当権設定などの不動産登記手続きは紙のまま行っている。過去の契約書類も、口座引き落としなど関係する手続きを含めて電子化するのが難しく、全体の電子化を進めるには課題が多いようだ。

法務省が公表している不動産登記のオンライン申請件数は2019年で約598万件。不動産登記全体の申請件数は約867万件なので、オンライン化率は69%に達している。不動産登記手続きの9割以上を担っている司法書士は、セコムトラストシステムズが提供する司法書士電子証明書サービスを利用してオンライン申請が広く普及している。

しかし「権利移転登記で完全オンライン化を実現しているケースはほとんどない。添付書類を後から郵送する別送方式か、従来どおりの紙での申請だ」(全国司法書士会連合会副会長・里村美喜夫氏)という。

先のデジタル改革関連法の成立で、宅地建物取引業者に交付が義務づけられている重説の書面(35条書面)と契約成立後の書面(37条書面)は、今後1年以内にハンコが廃止されて電子書面化できるようになる。不動産の売買や賃貸は、もともと電子契約は可能なので、弁護士ドットコムの「クラウドサイン」などの電子署名サービスを使って今後は電子契約も普及していくだろう。

中古マンションの売買契約を完了した後に、所有権移転登記を行う場合に必要な添付情報は下記の通り。

  • ①登記識別情報(または登記済証)=売主が保有
  • ②登記原因証明情報=売買契約書や代金領収書など
  • ③代理権限証明情報=売主の実印付き委任状
  • ④印鑑証明書=売主分
  • ⑤住所証明情報=買主の住民票コードまたは住民票の写し
  •  

築年数が10年程度の中古マンションであれば、①は売主に聞いた符号、⑤は住民票コード11ケタの数字を入力すれば済む。②も電子契約であれば、その電子データを添付すればよい。

問題は、売主の印鑑証明と委任状をどのように電子化するか――。ほとんどの行政手続きではハンコが廃止されるが、印鑑証明が必要な手続きにはハンコが残る。その代わりは、公的個人認証サービスなどを利用した売主の電子証明書付き電子委任状になるだろう。不動産登記の申請人である買主も、オンライン申請するときに電子証明書が要る。

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