「便秘に悩んでいる人」が知らない肛門の基礎知識 肛門科医が解説「スッキリ排泄」に要る3つの力

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便を出しきれずに出口である肛門が詰まると、その前にある腸も渋滞します。そのため、何日も便が出ないと、お腹がパンパンに張ってきたり、食欲が低下したり、最終的にゲップが出るようになったり、吐き気を感じたりします。中には本当に吐いた方もいらっしゃいました。

便の流れがどこで滞っているのか、お腹(腸)なのか、出口(肛門)なのかを把握することはすごく大切です。すべき治療が、まったく違うからです。ところが、先ほどお話ししたように、お腹の便秘ばかりが有名なために、出口が詰まっているのにそのことに思い至らず、一生懸命、お腹に効く下剤ばかり飲んでいる方がたくさんいます。

出口が塞がっているのに、下剤を飲んで便をどんどん出口に誘導したって、便通が改善されることはありません。むしろ、そうなることで余計、出口に便が詰まってしまいます。その結果、亡くなる高齢者もいるのです。

歳を取ると、腸の便を運ぶ力や出口の便を出す力が弱くなるうえ、硬い便になりやすいので便が詰まりやすくなります。さらに、腸がもろく破れやすくなるので、便が詰まって腸がパンパンになってしまうと、腸が破裂してしまう場合も……。

死に至った21歳女性の症例報告も

便を詰まらせて死に至るのは、高齢者に限った話ではありません。1998年、21歳の女性が便秘により死亡したと医学誌で症例報告がありました。

女性は1年前から便秘で、たまに腹痛などの症状も起きていましたが病院に行くことなく、市販の便秘薬を飲み続けていたそうです。死亡する2日前までは普通に仕事をし、死亡前日から仕事が休みだったため家にいて、風邪の症状と腹痛を家族に訴え、寝たり起きたりをくり返し、朝食以外何も口にしていなかったそうです。夕方、家族がトイレの前で死亡している女性を発見しました。

解剖の結果、死因は「腸内に大量の便が約7キロ近く溜まったことによる腸閉塞」でした。詰まった便の塊を指でかき出そうとしたのか、女性の人差し指と中指には便がついていたそうです。肛門内には真っ黒な便が充満し、直腸付近には水分をまったく含まないコンクリートのような便の塊が数十センチも溜まっていたと報告されています。便による腸閉塞で体内への血液供給が不十分になり、ショック状態が起きたことで亡くなりました。

「たかが便秘」では、決してないのです。

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