「試合に出ない選手」が少年野球で生まれ続ける訳 スポーツの勝利至上主義という日本独特の事情

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子を持つ親なら身につまされそうな話だ。しかし、この手の「昭和の指導者」は、今も全国にいる。少年野球の全国大会で活躍するようなチームは、多かれ少なかれ「試合に出してもらえない選手」を生み出している。

ある指導者は「試合に出なくても、『チームの勝利』のためにできることはある。それを頑張ることで、その子は成長する。試合に出る子のために、キャッチボールの相手をしたり、水分補給のサポートをしたり、ベンチで応援したり。やることはいっぱいあるんです。そういうことを一生懸命することで、出場する選手と一心同体になれる。私は親御さんに、『彼は試合に出なかったけれど、同じくらい頑張りました。立派でした』と言うんです」と胸を張ったが、筆者の心には響かなかった。失礼かもしれないが「大人の狡猾さ」のようなものを感じた。

アメリカではまったく事情が違う。アメリカから帰国したある父親は、現地で息子を少年野球チームに入れていた。

「向こうの父親は、わが子が試合に出られないと知ると、指導者に『なぜなのか』聞きに行きます。時には子どもが直接、指導者に掛け合うこともある。納得がいかなかったら、チームをやめさせます。アメリカの少年野球チームは毎週のようにトライアウトをやっていますから、親はそれを受けさせて新しいチームに入れます。何カ月もわが子をベンチウォーマーにしておく親はいないんじゃないかな」

少年野球が「勝利至上主義」になった経緯

筆者は『センバツ「私学と公立の格差」埋まらぬ根本原因』で、高校野球の私学と公立の格差について触れた。私学の中には、試合に出られない野球部員を大量に抱え込む高校もある。それでも大きな問題にならないのは、小中学校の段階で「試合に出られない選手」が当たり前に存在しているからだ。「実力がなければ試合に出られないのは当たり前」という認識が、日本の野球界には重く横たわっているのだ。

野球だけでなく子どもにスポーツをさせる目的は、第一に楽しさを教えて、スポーツ好きにするためのはずだ。勝利は二の次であるべきだが、「勝利」が優先されるために子どもに我慢を強いることが、正しいことであるかのようになった背景には、日本独特の歴史がある。

画像はイメージ(写真:筆者撮影)

日本野球は現在の甲子園、高校野球の前身である全国中等学校野球大会が始まってから、全国的に広がった。

朝日新聞、毎日新聞はこれで大いに部数を伸ばしたが、地方新聞もこれに倣って各地で野球大会を主催するようになった。中等学校だけでなく、その下の高等小学校や尋常小学校の大会も行われた。

子どもでも扱いやすい軟球が発明されたこともあり、小学生野球大会も大人気となった。ほぼすべての大会は、甲子園に倣ってトーナメント形式だった。トーナメントの場合、一戦必勝のため、すべてベストメンバーで戦うことになり、控え選手が試合に出る余地は少なくなる。

この伝統が戦後も継承され、リトルリーグ、ボーイズなどの硬式野球から、部活やスポーツ少年団の軟式野球まで大会はほとんどがトーナメントだ。今も新聞社が後援する大会もある。トーナメントでは少年野球も「勝つこと」が優先され、指導者はつねに「ベストメンバー」を組むことを求められる。全員を試合に出すことなど、実質的に不可能だ。「試合に出なくても成長する」という方便は「勝利至上主義」を正当化するために語られるようになったのだ。

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