家も危険!突発する「面識ない人に襲われる」怖さ 茨城一家殺傷事件だけじゃない理不尽な事件

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こうした事件はまだある。例えば、2015年9月に埼玉県熊谷市でペルー人の男が見ず知らずの住宅に次々と押し入り、小学生2人を含む6人を殺害した事件。「ヤクザに追われている」と語るなど、誰かに追われているという妄想の果てに、次々に住宅に押し入っては住人を刺し殺していく。

あるいは、2015年3月、兵庫県の淡路島でいわゆる“ひきこもり”の男が、近隣の民家に相次いで押し入って住人5人を刺殺した事件。こちらは見ず知らずの関係ではなかったが、寝静まった未明の犯行だった。

男には医療機関への通院歴もあり、「電磁波兵器で攻撃されていた。犯行は、その反撃だった」などと主張していた。

いずれも一審の裁判員裁判では死刑判決が言い渡されていたが、二審の高等裁判所は犯行時の「心神耗弱」を認めて死刑判決を破棄し、無期懲役とした。最高裁判所も二審判決を支持して、そのまま確定している。

加害者の視点から犯行を検証をする必要性

今回の事件の岡庭容疑者は、高校2年生の16歳だったちょうど10年前に「連続通り魔事件」を起こしている。

2011年11月18日、三郷市の路上で中学3年生の女子生徒のあごを包丁で突き刺して怪我を負わせ、2週間後の12月1日には隣接する松戸市の路上で小学2年生の女児の脇腹など数カ所を刺して重傷を負わせている。

この2つの事件で逮捕されたとき、岡庭容疑者はこう供述したという。

「人を殺してみたかった」

その後の精神鑑定で「広汎性発達障害」と診断された岡庭容疑者は、医療少年院へ送られている。おそらく、今回の事件でも状況からして、「人を殺してみたかった」ことが目的だった可能性が高い。

猛毒の硫化水素や爆薬の原料となる硫黄約45キロを自宅に貯蔵して昨年11月に逮捕されていることや、今回の事件で逮捕されたあとの家宅捜索で、サリンの生成に関する本や有毒植物のトリカブトが見つかっていることなどからも、人を殺すことに異様な執着をもっていたと推察される。起訴されれば、精神状態が裁判で争点になるはずだ。

「人を殺してみたかった」という理由で、無残にも殺された事件はほかにもある。殺人行為そのものが目的で、相手に恨みもなければ、必ずしも関係性を必要としない事件だ。であるからこそ、この事件については加害者の視点から犯行を検証する必要がある。

ただ、その前に1つ言えることは、安眠が許されるはずの自室の中でさえ、面識のない人物が忍び寄る危険性は、決して拭いきれないということだ。それは、他人事ではない。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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