三宅:具体例で何かありますか?
八木:たとえば、高せん断成形加工という革新的な技術です。スマホの液晶パネルや自動車の窓のガラスを樹脂に変えると、軽量化され、車の場合は燃費もよくなります。そういう透明で丈夫な樹脂を作る加工装置ですね。樹脂は、ガラスだけではなく、車のギアや軸受けのアルミニウムなど、いろいろなものを代替できるのです。普通はモノを混ぜるとき、ミクロのレベルで混ぜますが、ナノレベルで混ぜるともっとすごいパフォーマンスが出ることが理論的にはわかっており、検討を進めていました。でも、なかなかそれが具現できなくて、次の機械はどうしようかと思っているときに、たまたまこの分野で先行していた産業技術総合研究所の清水博先生に別件でお会いしたのです。
別件の話が終わってからわれわれの悩みを立ち話程度でしたところ、「うちはこういう技術を持っているよ」と紹介を受けました。私は機械を見て、話をきいて、すぐピンときました。これは面白い、工業化できればゲームチェンジできると思いました。先生と意気投合して、すぐ持ち帰って、当時の技術部長に投げました。それで「高せん断成形加工技術」が実用化に向けて大きく前進したのです。
三宅:八木さんの発想法は、何かものを付け加えるというよりは、5年後、10年後のゴールに足りないものを探して、頭の中にストックしておく感じですか?
八木:そうそう。やはり大事なのはハングリー精神ですよ。つねにハングリーじゃないと、情報が入ってきても埋もれるだけになってしまうのです。
三宅:足りないものは、頭の中に何個ぐらいストックしているのでしょう?
八木:いっぱいあります(笑)。足りないものだらけです。たとえば今はIT革命の入口で、将来はあらゆるものがネットワークにつながるでしょう。それも完成品だけではなく、工場の中のネットワークがおそらく世界的なネットワークになり、部品のモジュールが標準化して、そこにチップが入り、すべてが連動する世界になると思います。今は完成形の車や家電が販売されていますが、部品単位、モジュール単位までネットが入り込んでいって、1系列メーカーだけのバリューチェーンではなく、全世界をネットワークしたものになると思います。
三宅:それは、何年後ぐらいのことだと考えますか?
八木:10年後、20年後でしょう。そういう時代は、必ず来ると思います。そのとき大事なものは何なのか? ドイツは気がついて、もう始めています。実は、日本はいちばんいいポジショニングにいるのですよ。上流から下流までのメーカーが小さい国の中にいる。でも、今、日本の人たちはグローバル展開ばかりしていますが、本当は日本でネットワークを構築したらすごいと思うのですけど。
三宅:日本回帰ですか?
八木:できると思いますよ。そして、それを国際標準にすればいいのです。そうなった時代の機械メーカーのスタンスは何かと考えると、足りないパーツばかりです。たとえば、商社にも、機械だけ売っているより、ビジネスのスキームを組んで、ランニングロイヤルティで儲けるぐらいのことをやったほうがいいですよ、という話をしたことがあります。そうしたら、そのスキームが実現した例もあります。その際には、機械はうちでやりますが、それをインテグレートするところはうちではできないので、その商社にやってくださいよとお願いしました。
三宅:商社にソリューション提案とはすごいですね。
八木:たまたま、お客様のキーマンと私が昔から知っていて、よく酒を飲んでいたんですよ。それで、八木くん、こういうのがあるんだけど一緒にやらない?と言われて、そこから始まったのです。
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