「ある犯罪者」を22歳の起業家が「尊敬もする」理由 「やっかいな存在」リクルートを作った江副浩正

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次に、人を採用するときに、やる気にさせること。

東大の学生を寿司屋へ連れてゆき、江副さんが殺し文句で口説く場面があります。

「君たちは生まれてから22年間、先人の知恵、歴史を学んできた。でも23歳からは歴史を作るのです。この会社でならそれができます。一緒に日本を、いや世界を変えましょう」

現実を歪曲させてビジョンを伝えると、学生はコロっと落ちてしまう。これは凄い。僕自身に求められることでもあり、参考になりました。

もちろん、江副さんが1人で人を集めたわけではなく、創業メンバーで、元リクルートコスモス社長の池田友之さんらがいたからこその求心力であったことは間違いありません。ただ、代表としての接し方は学びが大きいです。

どんどん人に任せる度量

そして、早い段階で事業を人に任せるところも特徴的でした。江副さんご自身が勝負に出て、その初動を見るまでは興味はあるけれど、あとはすぐに人に任せてしまいます。

飽き性と言えばそうなのかもしれませんが、人に任せて、次々と新たに仕掛けてゆくやり方は、現場から抜け切れない僕には、まだできていません。それが採用のスピードにつながらない部分でもあり、本を読みながら、いさめられたようにも感じました。

江副さんはたびたび「君はなにをしたい?」と問いかけています。弊社には元リクルートの株主がいらっしゃるのですが、この問いについてはよくお話をうかがいました。江副さんを知らなかった僕でも、間接的に聞いて知っているのですから、その文化はしっかり伝わっているのだなと思います。

人心掌握や、人との関係性をモチベートするうえでは、体系化された理論だけでは十分ではありません。それが難しく、なかなか実践できるものではありません。江副さんのすごいところは、理論体系から入ったうえで、実地に落とし込んでいったところです。さらっと書かれていますが、その応用力は凄まじいと思いました。

江副さんはご自身を「カリスマではないカリスマだ」と表現されていますが、これもまた江副さん流のレトリックではないでしょうか。

自分で自分をカリスマだとは言わないでしょうし、むしろ「カリスマ」というものの定性的な魅力を、徹底的にファクトとロジックで突き詰めて要素分解し、自身の型として取り込んでいった。その結果、傍から見ればカリスマだった、ということではないかと思うのです。

カリスマ性すらも自分のものにしている。敵に回したらいちばん怖いタイプではないかと感じます。

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