日本に「ワクチン供給網強化」が何より必要な訳 感染拡大、変異を止めるために何ができるか

✎ 1〜 ✎ 52 ✎ 53 ✎ 54 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

また、欧米に比べて人口比感染者数が際立って少ない日本では治験が進まず、アメリカのような暫定的な緊急使用許可の制度もなかったため、海外と比べて承認のために時間を要した。

さらに欧州の輸出規制が供給のボトルネックとなっていたが、ようやく大量のワクチンが届き始めた。ファイザー社ワクチンの日本への空輸を担うANA Cargoは、昨年5月には輸送の検討に着手し、ワクチンの製造拠点がある国との路線の便数復旧や、到着日中にワクチンをより遠くに運べるよう午前中到着へのダイヤ変更なども実施した。国内輸送でも、日本の物流にはラストワンマイルを繋いで島嶼部や山間地へも配送できる強みがある。

これからは地方自治体が医師、看護師とともに接種を早く進められるかが課題となる。目先の緊急対応でしのぐのではなく、中央政府と地方が協力して接種体制を構築し、改善を重ねていく必要がある。

安全保障にふさわしい予算の編成が必要

強靭なワクチン・サプライチェーンは、気まぐれに脅威を増す新型コロナウイルスに対する「防具」でもある。封じ込めが難しいコロナに対しては、武器よりむしろ防具のほうが重要かもしれない。健康安全保障の観点からは、感染症危機対応を国防と考えるべきだろう。実際、アメリカは国防生産法を発動してマスクや人工呼吸器を確保した。日本でも防衛力整備と同様に、いかなる感染症危機においても国民の命と安全を守れるよう、安全保障にふさわしい予算の編成が必要だ。

日本はすでに途上国へのワクチンのコールドチェーン支援を進めている。マスク外交とワクチン外交の違いは、物資の信頼性の違いにある。国民の命に直結するワクチンについては、信頼できる国から支援を受けたい。中国のワクチン接種キャパシティは1日に700万回に達しており、すでに3億回近く接種した。日本、そして世界で強靭なワクチン・サプライチェーンを構築して接種を急ぐことが、感染拡大のみならずウイルスの変異を止めるためにも必要である。それがグローバルな「移動の自由」を取り戻し、パンデミックの終わりを近づける。

(相良 祥之/アジア・パシフィック・イニシアティブ主任研究員)

地経学ブリーフィング

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

2023年9月18日をもって、東洋経済オンラインにおける地経学ブリーフィングの連載は終了しました。これ以降の連載につきましては、10月3日以降、地経学研究所Webサイトに掲載されますので、そちらをご参照ください。
この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事