遺伝学の劇的進歩が可能にする「老いなき世界」 医療未来学者が解説する「老化を治療する」科学

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

老化のカギを握る「サーチュイン」という酵素も注目されています。

サーチュインは寿命をつかさどる酵素とも言われ、単純な生物である酵母からヒトまで、さまざまな生物に存在します。酵母研究は歴史が長く、サーチュインの存在が提唱されてから20年以上が経ちますが、老化に深く関わっていることが注目されたのは最近の話です。

われわれ哺乳類の身体の中には1型(SIRT1)から7型(SIRT7)まで、7種類のサーチュインが存在することが知られています。それらの機能が完全に解明されるには、まだ時間が必要です。

シンクレア博士の研究室では、このサーチュインを熱心に研究していて、いくつかの成果は『LIFESPAN』で紹介されています。

このサーチュインや、サーチュインが十分に働くために必要なエネルギー源として知られるNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の全容がわかるときに、われわれは初めて、老化や不死の理解に近づくのだと思います。

老化を食い止めるためにできること

それでは結局、老化は食い止められるのでしょうか? この分野は今まさに激流の真っただ中にあり、明快な回答を示すことはできません。

しかし、少なくともエピゲノムに関する知見は、多く蓄積されてきています。老化しないために気をつけなければいけないことはいくつも見えてきているのです。

それは、適度な運動習慣であったり、過剰なエネルギー摂取を避けることであったりしますが、実のところこれらは、20世紀後半から言われてきたことと大して変わりません。われわれが取り組んでいたことが(意外と)正しかったということでしょう。

ちょっとだけ逆説的な話をすると、老化とがん化のエピゲノムは基本的には非常に似通った特徴を持ちますが、時として、「抗老化」が「がん化」と同じ方向を向く、ということもあります。

無尽蔵に自分と同じ細胞(がん細胞)を作る病態ががんの本質です。老化を防ぐことに成功したことで、細胞のがん化を進めてしまうことも、理屈上ありえます。

老化とがん化の関係性は複雑に絡み合い、単純ではありません。この難攻不落な分野を解明すべく、シンクレア博士も、また、そのライバルの研究者もしのぎを削っています。

抗老化は達成しつつ、でも、がん化を代表とする「悪いこと」は一切起こらないようにする――そんな虫のいいことができるようになるのだろうか? これからも抗老化研究から目が離せません。

奥 真也 医療未来学者・医師

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

おく しんや / Shinya Oku

1962年大阪府生まれ。医療未来学者、医師、医学博士。経営学修士(MBA)。大阪府立北野高校、東京大学医学部医学科卒。英レスター大学経営大学院修了。東京大学医学部附属病院放射線科に入局後、フランス国立医学研究所に留学、会津大学先端情報科学研究センター教授などを務める。その後、製薬会社、医療機器メーカーなどに勤務。著書に『未来の医療年表』(講談社現代新書)、『医療貧国ニッポン』 (PHP新書)、『人は死ねない 超長寿時代に向けた20の視点』(晶文社)、共著に『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)がある。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事