マスターズV「松山英樹に密着10年」で見た進化 日本人初マスターズ制覇、その知られざる軌跡

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最終7位タイでフィニッシュした松山は「マスターズで勝つには100をもってこないと0にされる。99であっても0にされる舞台」と表現した。いつものポーカーフェイスで淡々と語りつつも、悔しさがにじみ出ていた。

2017年のマスターズは11位タイ。その年の全米オープン2位タイ、全米プロゴルフ選手権5位タイなど、メジャー大会で上位に食い込む活躍を見せたが、2018年以降、マスターズを含むメジャー大会で、2ケタ台の順位が続いた。悔しさと苦しさを募らせながら、ここ数年はスイング面で「どこを直したらいいのか分からない」と話すほど悩みが深くなっていた。懸命に修正を重ねつつも、自分の理論と感性だけでツアーを戦って頂点を狙うことにある種の限界を感じ、何かを変えなければいけないと考えていた。

そんな中、松山にとって転機となる出会いが訪れた。日本では数少ないTPIレベル3というレッスンプロ資格を持つ目澤秀憲氏と、知人を介して出会ったのだ。松山は、目澤氏と会話を重ねていく中で、新鮮な刺激を受け続け、人生初の専属コーチ契約を結ぶことになった。

コーチとして迎え入れてからは、目澤コーチが得意とするデータ分析を取り入れた指導も加わった。今まで独学でスイングを追求してきた松山にとっては、1人であれこれと考え悶々とする時間が取り除かれ、心技体のすべてをプレーに集中させることができる環境が整った。目澤コーチ、飯田光輝トレーナー、早藤将太キャディなどの『チーム松山』で、初出場から10年目のマスターズに挑むことになった。

今年は挑戦前に確かな手応えを感じていた

松山にとって期するものがあったはずだ。なぜなら、すでにアメリカツアーの勝利からもおよそ3年半、松山は遠ざかっていたからだ。しかし、今大会はマスターズ挑戦を前に「マスターズの週に入ってから、どんどん自分の状態が上がっていくのがわかった」と確かな手応えを感じていたと大会後に松山は語っている。まさにその手応えは間違っていなかった。

初日から、3アンダーの69と好発進。スムーズなストロークから、目澤コーチと磨き上げたパットが冴え渡った。2日目を71にまとめ、首位に3打差の6位と好位置で前半を折り返す。第3ラウンドでは、なんと自己ベストの7アンダー、65をマークし、一気に単独首位へと浮上した。

今年のマスターズは初日から好調だった(写真:TBSテレビ)

4打リードで最終ラウンドへ。「悲願のメジャー制覇か」「待望のグリーンジャケットか」と周囲の期待は高まる。ただ、マスターズにはいくつもの逆転劇や悲劇があり、簡単な大会ではないことは歴史が物語っている。

4歳の松山が初めてゴルフに出合った1996年もそうだった。当時世界ランキング1位のグレッグ・ノーマンが第3ラウンドを終えてリードを6打に広げ、念願のマスターズ初制覇を手中に収めたと思われた。が、最終日に78と大崩れし、結果的にニック・ファルドに5打差をつけられ敗れた。

「(4打のリードは)あってないようなもの」

松山への期待が高まる中、テレビ解説で中嶋常幸氏がこのように論評したのも、“オーガスタの魔物”を知るからこそだ。

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