マスターズV「松山英樹に密着10年」で見た進化 日本人初マスターズ制覇、その知られざる軌跡
松山にも魔物が忍び寄る。4打リードで迎えた最終日を、松山は「ティーグラウンドに行ったら急に緊張を感じた」と振り返る。
1Hの第1打を右の林に打ち込んで、いきなりのボギー。1、2Hで連続バーディーを奪ったウィル・ザラトリスとの差は早くも1打に縮まった。4打差からのあっという間の出来事だ。スコアが簡単に落ちるゴルフの怖さを多くの人が目の当たりにした。
だが、松山は1996年のノーマンのようには崩れなかった。続く2Hでバーディーを奪い、8、9Hでも連続バーディー。前半で2打伸ばし、少し落ち着いたように見えた。
ところが、後半に再び試練が訪れた。3連続バーディーで4打差まで追い上げてきたザンダー・シャウフェレを「引き離そう」と2オンを狙った15番ロングで、奥の池にボールが吸い込まれた。このホールをボギーとし、4連続バーディーと勢いが止まらないシャウフェレに2打差に迫られた。
その後、シャウフェレはスコアを落とし、2位のザラトリスと2打差で迎えた最終18H、松山は第2打をグリーン奥にかなり外した。それでも、絶妙なアプローチでピンチを切り抜けた。
そして、ついに歓喜の瞬間が訪れる。マスターズ制覇を夢見た先人たちの想いとともに、グリーン上でパターを構える。松山はその瞬間を味わうように、ゆっくりとカップにウイニングパットを決めた。
挑戦は未来へ引き継ぎ、引き継がれていく
マスターズに挑戦して10年。すべてをマスターズ制覇のために捧げた男の姿は凛としていた。グリーン上で喜びを噛みしめる松山。その表情に笑みが少しこぼれたのは、ともに72Hを考え戦い抜いた早藤将太キャディとの抱擁のときだった。そして、目澤コーチをはじめ『チーム松山』のスタッフとの喜びの瞬間、嬉し涙が夕日に照らされ輝いていた。
日本男子ゴルフ界の歴史が動いた。日本人がマスターズに初めて挑戦してから85年。長年をかけ追い求めてきた日本人の夢が遂に叶った瞬間だ。グリーンジャケットに袖を通した松山英樹は、喜びを爆発させ、拳を何度も空に突き上げた。その姿は、我々の記憶に深く刻まれることだろう。
優勝後のインタビューで松山は「日本の子どもたちと、いつかここで優勝争いができたら嬉しい」と語った。日本男子ゴルフ界のマスターズへの挑戦は、未来へ、引き継ぎ、引き継がれていく。その大切さを松山英樹は伝えたかったのではないだろうか。
(文中敬称略、TBS「バース・デイ」取材班)
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