50代で独立したら年金・健康保険はどうなるか 会社任せにはできない手続きがいくつもある

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社会保険について変わるのは退職して個人事業主になった本人だけではありません。配偶者が60歳未満の場合で、今までは国民年金第3号被保険者として扶養に入っていた場合、本人の退職により配偶者も第1号被保険者に切り替え手続きを行う必要があります。配偶者も本人と同様、60歳の前月分まで自身の国民年金保険料を納める義務があります。保険料を納付できない場合は免除申請を忘れずに行う必要があります。

医療保険についても、本人が健康保険の被保険者でなくなると配偶者も被扶養者ではなくなり、配偶者自身も国民健康保険の被保険者になります。国民健康保険には被扶養者というものはありません。ただし、本人が先述の任意継続被保険者になっていれば、配偶者はその期間中は扶養に入ることができます。配偶者のことも踏まえ、本人の加入方法を決めるといいでしょう。

法人化すれば厚生年金も健康保険も加入できる

では、会社を辞めて独立すると、厚生年金や、任意継続を除いた健康保険にもう加入できなくなるのでしょうか。

そんなことはありません。株式会社などの法人を設立して事業を行い、その代表取締役や役員となって法人から役員報酬を受け取る場合は、厚生年金被保険者(国民年金第2号被保険者)にも健康保険被保険者にもなることができます。その結果、老齢厚生年金も増え、健康保険の傷病手当金の対象にもなり、国民年金第1号被保険者、国民健康保険の場合と比べ、将来やもしものときの保障が厚くなります。その配偶者も条件を満たせば、年金での第3号被保険者、健康保険での被扶養者になることができます。独立後の社会保険という点では株式会社などを設立する法人化のほうがメリットも大きいといえます。

ただし、負担する厚生年金保険料・健康保険料、その他介護保険料については、会社員時代は保険料全体のうちの被保険者本人分のみ負担していましたが、法人を設立すると、被保険者分だけでなく、自身の経営する法人が負担する分の保険料も負担することになります。また、法人を設立するには登記などの費用がかかったり、個人事業主の場合の所得税ではなく法人税の負担になったりしますので、社会保険以外のことも踏まえたうえで法人化を検討することになるでしょう。

会社員時代の社会保険料について、人事や総務の担当でない限り、仕組みもよく知らないまま、控除されていたと感じる人も多いことでしょう。今までは会社任せでしたが、退職後は自分で保険料の支払いなどの手続きをしなければいけなくなります。会社を辞め、やってみたい事業のことで頭がいっぱいになりがちですが、社会保険のことも十分理解したうえで独立することが大事です。

井内 義典 ファイナンシャル・プランナー

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いのうち よしのり / Yoshinori Inouchi

株式会社よこはまライフプランニング代表取締役。FP、特定社会保険労務士。公的年金が専門で、これまで3000件を超える年金相談業務を経験し、地方自治体職員、年金事務担当者、ファイナンシャル・プランナー向けの年金研修・セミナーで講師も務めている。また、年金、社会保険に関して、専門誌、インターネット等での執筆や、書籍の監修も行ってきており、執筆数については合計で約200本に上る。「FP相談ねっと」認定FP、神奈川県ファイナンシャルプランナーズ協同組合組合員、日本年金学会会員として活動中。

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