明治の偉人が「野球害毒」叫んだうなずける背景 新渡戸稲造らが批判、「ゲーム脳」と繋がる論調

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新渡戸稲造が展開した野球批判は、おおよそ次のようなものでした。

・野球は賤技なり剛勇の気なし
・相手を常にペテンにかけよう、計略に陥れよう、塁を盗もうなど、眼を四方八面に配り神経を鋭くしてやる遊びである
・ゆえに米人には適するが英人やドイツ人には決して出来ない
・英国の国技たる蹴球のように鼻が曲がっても顎骨が歪んでもボールに嚙り付いているような勇剛な遊びは米人にはできない
・日本の野球選手は礼儀を知らない。過日の軽井沢で行われた外国人との試合において不調法な野次を飛ばして試合が中止になったという
・海外では「スポーツマンライク」と言って非常に礼儀正しいことであるが、これを日本語に訳して「運動家らしい」と言うとなんというか礼儀も知らぬ破落漢の様に聞こえるのも日本の運動家の品性下劣から来ている

野球批判をしたいのか、お国批判をしたいのかよく分からない内容です。ちなみに「外国人に野次を飛ばして怒らせた」というのは、まったく逆の構図で、向こうから野次を飛ばしてきたのだ、と当時試合に参加した選手から反論が上がりました。

野球害毒論のなかでも、ひときわ強い語調で野球を批判しているのが、順天中学校長の松見文平です。

・野球の問題を訴える人々は、野球に一分の利がありつつも害の方が多いという論調のようだが私は根本から野球其物を攻撃したい
・野球選手が勉強ができないというのは熱中のあまり勉学を怠るためと言われているがそうではなく、掌へ強い振動を受けるためにその振動が腕から脳に伝わって脳の作用を遅鈍にする
・また野球をやりすぎれば、右手右肩だけが発達し、指は曲がったり根元ばかりが太くなり指を併せることができなくなり、結果的に徴兵に合格しなくなってしまう

元スター選手の批判に対して本人が異議

野球の弊害を訴えたのは教育者だけではありません。9月5日、「旧選手の懺悔」という表題で野球を糾弾したのは、河野安通志という人物です。かつて早稲田大学で剛腕を振るい、早慶戦第1試合から中止となる第9試合までを先発で完投した名選手でした。河野の発言の要旨は次のとおりです。

・選手が練習のために学業をなまけ落第する
・私も早稲田などに入らず商業高校にでも入っていればよかった
・日本野球の悪習として、選手が華美な服を好むというものがある
・海外遠征などでアメリカにかぶれ、向こうの妙な格好を日本に伝播してしまったことは懺悔せずにはいられない
・試合において入場料を取るなどという行為は中止すべきと思う

かつてのスター選手が語った「懺悔」に、世間は大きく動揺しました。ところが、この意見に異議を唱える1人の男が現れました。それは河野安通志、本人だったのです。

次ページ3日後、東京日日新聞で怒りの意見
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