「張り紙1枚」で交通の利便性は飛躍的に高まる 震災10年の津波被災地をたどる・福島いわき編

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いわき駅周辺をひと回りしてみて、感心したのが、平新川町郵便局の待合室に、最寄りバス停の時刻表が掲示されていたこと。「郵便局でバスをお待ちいただけます」とのポスターとともに貼られていた。

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震災とはとくに関係はないのかもしれないが、小名浜郵便局でもロビーをバスの待合所として使ってくださいとの掲示を見ている。バスも郵便局も公共性は高い。そういう組織の会社の壁を越えての連携は、利用客にとってもありがたい。かねて持論にしていた、MaaS以前に貼り紙一枚だけでも利便性は大きく高まるという実例を見ることができた。

いわきから北の常磐線が海沿いに出る、つまりは津波を被った区間は四ツ倉から北。四ツ倉までの路線バスも、富岡への急行バスもあるが、常磐線と並行している国道6号を走るので、ここは13時40分発の列車で一気に進む。

震災後ひと月で復旧

常磐線は震災直後、全線で不通となったが、いわき以南は2011年4月11日に復旧。いわき―四ツ倉間は同年4月17日、四ツ倉―久ノ浜間は5月14日に、運転再開へとこぎつけている。三陸鉄道が被災後すぐ、運転を再開したことが賞賛されるが、目立たないところでも「何がなんでも列車を走らせよう」との努力が行われたのである。津波が線路付近で止まり、鉄道そのものへの被害が少なかったことが幸いしたようだ。

常磐線の四ツ倉駅では駅舎建て替え工事が進む(筆者撮影)
常磐線の木戸駅(筆者撮影)

13時52分に着いた四ツ倉は、筆者が訪れた3月10日限りで老朽化した旧駅舎の使用が終わり、翌11日から隣に造られた新しい駅舎の使用が始まるところだった。2020年7月から始まった建て替え事業とのことで、小さく簡素ながらも、木質も生かした落ち着いた新駅の様子がフェンス外からもうかがえた。さらなる改良もまた、続けられている。

3月10日は、木戸へ15時47分の列車で着き、駅前にある新しいビジネスホテルに早めに投宿した。復興事業の関係者を当て込んだ、こうしたホテルが目立つ地域なのだ。久ノ浜から北は「原発事故」の影響を強く被った地域でもある。じっくり見て回るのは翌3月11日とした。

まずは1日、バスと鉄道を乗り継いでいわき市内だけを見ただけだが、震災からの”復旧”は進み、平穏を取り戻していたと感じた。鉄道が好例であろう。ただ町作り、公共交通網作りは、まだ途上だと思う。確かに防災ビルも建ち、バス網も再建された。だが、そこに「ほころび」はないか。利便性向上のための大小の工夫は随所に見られたが、震災による、常とは違う人口流動や産業の動向は、見極める必要があるだろう。

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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