「張り紙1枚」で交通の利便性は飛躍的に高まる 震災10年の津波被災地をたどる・福島いわき編

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常磐線は海からやや離れたところを走るが、海沿いにバス路線はないので、泉まで直行。7時54分着。

泉は優しげな駅名だが、常磐線の全特急が停車する主要駅で、工業地帯であるいわき市小名浜への玄関口だ。いわき市を中心に路線網を広げる、新常磐交通のバスターミナルが駅前にあり、朝は周辺の高校へ向けて直行バスが次々に出て行く。

JR常磐線の泉駅(筆者撮影)
福島臨海鉄道の小名浜駅(筆者撮影)

泉駅前―小名浜方面のバスは1時間に1、2本はある。途中無停車でイオンモールいわき小名浜へ向かう直行バスも運転される。町の中心は支所入口バス停付近で、8時35分発の江名経由いわき駅行きに乗ったら、約10分で到着した。

「被災した鉄道を取材した」と言っても唯一、訪問できなかったのが福島臨海鉄道だ。1972年までは旅客営業も行っていたが、今は泉―小名浜間の貨物専業鉄道なので乗車のしようがなかった。けれども、小名浜地区も6mを超える津波に襲われており、小名浜駅を中心にこの鉄道も壊滅的な被害を受けている。運転再開は2012年2月1日で、約1年かかった。

いわき市は、鉄道の復旧に留まらず、小名浜港に整備済みであったいわき市観光物産センター「いわき・ら・ら・ミュウ」(1997年オープン)、水族館「アクアマリンふくしま」(2000年オープン)と、小名浜の市街地との間を遮る形になっていた小名浜駅を約600m、泉側へ移す震災前からの再開発計画を見直し。駅跡地に建設される「イオンモールいわき小名浜」を津波発生時の緊急避難ビルとした。

バスが買い物の足

イオンモール北側にはバスターミナルも設けられており、営業時間内は路線バスが乗り入れ。公共交通機関を利用しての買い物にも配慮されている。家を失った被災者のみならず、自家用車を失った被災者も少なからずいる。公共交通機関の整備もまた、支援の一環である。

震災復興事業として整備された「イオンモールいわき小名浜」。津波発生時の緊急避難ビルになる(筆者撮影)

福島臨海鉄道の直営ショップ「浜の駅おなりん」(筆者撮影)

旧駅跡の一部には、福島臨海鉄道の手で「浜の駅おなりん」という直営ショップも建てられた。1階がコンビニエンスストア、2階がいわき市の物産のセレクトショップと、同社の歴史的資料の展示、鉄道グッズの販売が行われている。

建物前には、同社で使われていた腕木式信号機も置かれた。「おなりん」とは、同社の旧名、小名浜臨港鉄道時代からの地元での呼び名にちなむ。

この施設の側には高速バスの小名浜バス停があった。なぜか市内路線バスのターミナルとは別だ。買い物客よりアクアマリンふくしまへの観光客を意識したような位置だが、筆者も勘違いしかけ、時刻表を見るまで、次に乗るべきバスが別の場所から出ることを理解できなかった。

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