祖業にこだわるのは、それが家業だからである。いわゆる西洋的な合理性からくる理由は何もない。事業を乗り換えるのは、いよいよ会社が潰れそうな危機に陥ったときである。しかし、普通はそれでは遅すぎる。だから、方向転換してもやっぱり潰れる。したがって、日本企業で継続しているのは、事業変更をしなくて済んでいる企業たちである。食に関する老舗の会社が多いのは、テクノロジーの変化がゆっくりで、本質的な価値が不変な事業だからである。
また「中小企業を統合して効率化して大企業にして利益を増やす」という発想はない。それは家のおとりつぶしだからである。だから、M&Aなどは最終手段なのである。キッコーマンも蔵元存亡の危機に直面して8つの家族が一致団結したものであり、その後も事業継続を優先し、適切なペースでしか事業拡大を行っていないが、それが現在の発展につながっている。本社は千葉県野田市である。現在の交通上は非常に不便なところなのに、ここから絶対に移さない。
「なし崩し的なシフト」で混乱している日本企業
では、これらの日本の会社が、なぜ混迷を極めているのだろうか。一方で楠木氏がいうように、個別には非常に儲かっている企業がある。この差はどこにあるのか。それは、山口氏が家族法について述べているように、会社から企業へのシフトをなし崩しに行っているために、コンセンサスもできず、経営者も従業員も、そして世間の人々も混乱しているからである。
要するに、英米流の投資家と、英米で学んだ学者たちが寄ってたかって、「日本企業が駄目だ」といっているだけである。企業ではなく、会社という枠組みのなかで生きている人々は、それらの指摘を「何か腑に落ちないな」と思いながら、「今はそういう時代なのか、仕方がない」、と新しい制約条件の一つとして受け止めているのである。一方、成功している企業は、日本の伝統的なイエ的な発想を持たない企業である。事業領域にこだわらず、事業の継続にもこだわらず、利益、企業価値最大化をはっきりとした目的とする企業たちなのである。
そして、日本的な会社の経営者たちも、事業の継続では立ち行かない、イエ的な価値観は捨てなければいけない、ということはようやく受け入れつつある。
だが、それでもうまくいかない。なぜなら、事業継続、イエの存続という明確な経営の軸、目的を失ったいっぽうで、新しい明確な目的と軸が確立していないからである。
ESGはブームにすぎないし、利益率も制約条件にすぎない。何を絶対的な基準として経営していくのか。それがないのだ。だから、前回の記事「日本が何度もコロナ対策に失敗する本当の理由」で議論した、昔の日本軍のように、目的がないにもかかわらず、何か「仕事」をしないといけないと必死になり、世間に受け入れられるように、世間の雰囲気で、同調圧力に動かされて、のたうちまわっているのである。これが今の典型的な「日本の」会社である。
もちろん、例外はある。しかし多くの「日本の」会社が、同じ問題に直面し、同じ思考構造で路頭に迷っている。なおかつ、同調圧力に弱いという社会的弱点から、多くの会社が流されて動いている以上、日本企業が群れをなしてのた打ち回っている。
バブルに乗っているのか、乗らされているのか、漂流しているのか、わからない。だが、群として動いているのであるから「日本企業はどうするべきか」という命題は、今こそ重要なのである(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承下さい)。
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