映画「ミナリ」地味なのに全米で大ウケの真因 韓国人一家の物語がアメリカ人の心を打つワケ

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「新型コロナウイルスがもたらした困難のあと、ミナリは、悲劇なのに、淡々として静か、暖かくて理想や希望があるところが、『癒し』だと思われた」と、ニューヨーク在住ジャーナリスト、シェリーめぐみは分析する。

ミナリが映画で意味するところも、希望を与える。ネタバレになるので多くは語れないが、おばあちゃんが韓国から持ってきたミナリの種が大地に根付いていくさまは、すべての移民に当てはまる。さまざまな国・地域から来た家族や独自の文化が根を下ろし、壮大な移民国家、アメリカを形成していく。

「セリは、強く育って、再生力もある。移民は、大失敗もするけれど、段々強くなって繁栄していくという意味があると思う」(カルチャー分野に強いニューヨーク在住のライター・エディター、黒部エリ氏)。

アメリカ人にとっての「キリスト教」

ミナリで描写されるキリスト教も、日本人にはわかりにくい面ではあるが、アメリカ人に突き刺さる要素だ。ジェイコブ一家は、コミュニティとの絆を求めて教会デビューし、暖かく迎えられる。「なんで顔がそんなに平たいの?」と言われながらも、デビッドは友達をつくる。

雇い人のポールは、日曜日になると、ゴルゴダの丘に登るイエス・キリストさながら、大きな十字架を担いで歩いている。「これが、自分の教会だ」と説明しながら。かなり変わった人物で、1980年代ではなく今なら、陰謀論を信じるトランプ前大統領の支持者といったところだろう。しかし、そういう人も信者で、アメリカ人には理解できる。

アメリカ人にとってキリスト教信仰は、とても重要だ。アメリカでは、国民の70%以上がキリスト教徒で、そのうち約70%がプロテスタントである。「聖書は本当に神の言葉であり、一言一句文字通り解釈しなければならない」とする狂信的な人たちは、アメリカ人の3分の1にも上る(「ファンタジーランド 狂気と幻想のアメリカ500年史」による、カート・アンダーセン著、東洋経済新報社)。このため、ダーウィンの「種の起源」を公立校の授業では教えていない保守的な州さえある。世界は、神が創造したというのが理由だ。

こうした背景を考えると、キリスト教を「強さ」や「協力」の礎のように描いたミナリは、多くの宗教的アメリカ人の共感を得た可能性が大きい。

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