ウォークマン、グーグル、スタバの意外な共通点 成功の理由は「余計なものを省くこと」だった

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世界にはこの手の目に見えない知性が満ちている。伝統的な建築物について私がいつも用いる弁護の言葉は、それが利用しやすいというものだ。

数年前、私はロンドンのサウスバンクにある、1960年代のひどく殺伐とした建物で開かれた会議で発表予定の人々と一緒だった。われわれはみなその建物のまわりをうろうろし、どこから入ったらいいのかわからずにガラスのドアをあちこち試していた。あなたが大英博物館についてどう言おうとかまわないが、150年後にその古典的な屋根つき玄関に近づいてこんなことを思う人はいないだろう。「うーん、ドアはどこにあるんだろう?」。

ちょっと想像してほしい。取っ手と「押し板(push plate)」が付いていて、押し板の上には「PULSH」〔訳注 push(押す)とpull(引く)の合成語〕と書かれたドアを。

録音機能の付いたウォークマンをソニーが製造していたら、このドアと同じことになっていただろう。「PULSH」──つまり、機能が少しも明確ではないものだ。

ウォークマンは明確な心理的発見、あるいは経験則──「多芸は無芸の法則」──というものも応用している。すなわち、1つの働きしかないものは、多くのことができると主張するものよりも優れていると、人間は自然に推測するのである。

同様に、「ソファベッド」という言葉を聞いたときは本能的に、ソファほど優れていないが、ベッドとしてもあまり快適でない家具が思い浮かぶ。スポークというものを見たことがある人もいるだろう。スプーンとしては不出来で、フォークとして使うにはあまり役に立たない道具だ。

グーグルは「取り除くこと」で成功した

科学的な傾向の持ち主は──かなりと言っていいほど──ウォークマンから録音機能を取り除いたことがよいアイデアだった証拠はないと主張するだろう。多機能モデルが発売されて大失敗したという並行世界は存在しないのだ。

さらに、ウォークマンの後のバージョンには録音機能が付け加えられたことも事実である。もっとも、これはウォークマンという装置の機能が広く認められて理解されたあとに起こったことだが。

しかし、ここで私が証拠として当てにできるのは、ある出来事が同じパターンで繰り返して現れることである──あるものに何かを付け加えるよりも、何かを取り除いたことによって重要なイノベーションが生まれる話は驚くほど多い。

あけすけに言えば、グーグルは検索ページに散らばっている無関係なたわごとがないヤフーである。そしてヤフーは当時、作りつけのインターネットへのアクセス機能がないAOLだった。どちらのケースも、競争相手が提供しているものに何かを付け加えるよりは、何かを取り除くことによって、優勢になることに成功したものだ。

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