ウォークマン、グーグル、スタバの意外な共通点 成功の理由は「余計なものを省くこと」だった

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「頭の中で音楽を鳴らしながら歩き回りたいと思うはずがない」というのが典型的な反応だったが、盛田はそれを無視した。

ウォークマンが生まれたのは70歳の井深がきっかけだった。東京とアメリカを結ぶ飛行機の中でオペラをまるまる聴けるような小型の装置が欲しいと言ったのだ。

開発したエンジニアたちはとりわけ誇らしさを感じていた。盛田から作れと簡潔に指示されたもの──小型のステレオカセットプレーヤーの製造に成功したばかりか、録音機能までもどうにか付けられたからだ。

その余分な機能を取り外せと盛田に命じられたとき、エンジニアたちは意気消沈しただろう。大量生産の経済を考えると、録音機能が付いても、製品の最終価格に数ポンドほど上乗せするだけにすぎない。だったら、この意義ある機能を付け足さない理由などあるだろうか?

「合理的な」人なら、エンジニアの助言に同意したらどうかと盛田にアドバイスしただろう。しかし、複数の人の話によれば、盛田は録音ボタンを禁じたという。

これはあらゆる一般的な経済ロジックに逆らっているが、心理(サイコ)ロジックには従っている。盛田は録音機能があると、新しい装置の目的は何なのかと人々が混乱すると思ったのだ。これは口述録音のための装置だろうか? レコードをカセットに録音すべきなのか? それとも、生の音楽を録音すべきなのだろうか?

マクドナルドが店からナイフやフォークを排除したことで、ハンバーガーをどう食べるべきかを明らかにしたように、ソニーはウォークマンから録音機能を排除したことにより、機能の幅は狭いが人間の行動を大いに変える可能性を持った製品を生み出したのだ。可能な利用方法を減らして1つに絞ったことによって、この装置が何を目指しているかを明確にしたのである。

「アフォーダンス」の明確性

これを技術的なデザイン用語では「アフォーダンス」と呼ぶ。もっと知られてもいい言葉である。ドナルド・ノーマンがこう述べているように。

「“アフォーダンス”という言葉は、ものの認識された性質と実際の性質を指している。主として、あるものがどのように使われる可能性があるかを決定する基本的な性質のことだ。[……]アフォーダンスはものがどのように使われるかに強力な手がかりを与えている。板は押すためのものだ。ノブは回すためのもの。スロットは何かをその中に挿入するためのもの。ボールは投げたり弾ませたりするためのものだ。アフォーダンスがうまく働くとき、一目見ただけでそのものの使用法がわかる。写真もラベルもいらないし、指示書きも不要である」

この概念がわかれば、盛田が正しかった理由を理解できるだろう。何かに機能を付け加えることはいつでも可能だが、それによって新しいものが多用途になるとはいえ、そのアフォーダンスの明確性は減る。使用する楽しさが少なくなり、購入を正当化することがより難しくなるだろう。

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