ロヒンギャとミャンマー国民に見た和解の兆し 学生連盟が「謝罪文」、共通敵「国軍」を前に協調

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匿名を条件に取材に応じたこのロヒンギャ男性は、この謝罪文がロヒンギャにとって持つ意味の大きさを語ると共に、学生連盟からのみでなく、アウン・サン・スー・チー氏を支持する「連邦議会代表委員会(CRPH)」などからも公式にこのような謝罪がもたらされることも期待してやまないと話す。

その背景には、長年ミャンマーではロヒンギャに対して蔑称的な「ベンガリ」と言う呼称が使われるなど、複雑な歴史的背景、政治状況が横たわり続けてきた現実がある(「スーチー氏拘束にロヒンギャが『歓喜』する事情」2021年2月4日配信)。ベンガルとは主にバングラデシュとインドの西ベンガル州など一部を指しており、ミャンマー人にとってロヒンギャは隣接するバングラデシュからの不法移民とみなされ、その存在は認められてこなかったわけだ。

アウン・サン・スー・チー氏も国際法廷の場でジェノサイド(集団虐殺)について反論をしてきた経緯から、国民民主連盟(NLD)の議員らで構成される「連邦議会代表委員会(CRPH)」から正式な表明がない限り、果たして今後、ロヒンギャを巡り事態を打開するような積極的な策が講じられるのか、単純にぬか喜びは出来ない、複雑な感情を心に潜めているのも事実だ。

しかし今、共通の「国軍」という立ち向かうべき敵を前にして、長きにわたってお互いに相入れることのなかったミャンマー市民とロヒンギャの間に、市民レベルではあるものの急速に雪解けのような空気が醸成されつつある。

醸成されてきたロヒンギャとの「連帯感」

実は、その動きはクーデターから数日経った時点で、すでに始まりつつあった。路上に出て3本指を立て必死に抗議するミャンマー国民らと同様に、難民キャンプなどから民主化を求めて抗議に参加するロヒンギャたちの姿を捉えた写真が、ソーシャルメディア上で目につくようになったのだ。

コックスバザールの難民キャンプで暮らすロヒンギャの子供たちが「新たな世代 ミャンマーと共に立ち上がる」とマジックで書かれた紙を掲げて、揃って3本指を立ててみせる写真や、「私たちロヒンギャは民主主義のために立ち上がります #国軍を拒否せよ #ミャンマーを救え」と書いたダンボールを手に路上に立つ姿を捉えた写真が「#Rohingya Stand For Democracy」と言うハッシュタグと共に、ロヒンギャのみならずミャンマー国民らにより広く拡散されていった。

「私たちロヒンギャは民主主義のために立ち上がります」とマジックで書いたダンボール紙を掲げたロヒンギャの写真 ミャンマー市民らの共感を呼んだ (写真:フェイスブックより)

これらの写真がSNS上に広がり始めると、ミャンマー市民からは次々に「あなたたちロヒンギャについてこれまで声を発してこなかったことを、心から謝ります。今、私たちはロヒンギャと共に立ち上がります。この困難が終われば必ず、私たちはミャンマーで再び会うでしょう。私たちのために自由に戦いましょう」、「戻ってきてください。どんな民族であれ宗教であれ、共に立ち向かう準備はできています。私たちは今、人類が皆平等に人類として生きられる国を目指しているのです」、などのメッセージがあふれた。

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