ロヒンギャとミャンマー国民に見た和解の兆し 学生連盟が「謝罪文」、共通敵「国軍」を前に協調

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「連邦議会代表委員会(CRPH)」は、少数民族が長年にわたって要求してきた連邦制民主国家の樹立を約束しており、人口の3割を占める少数民族との和平は、重要な課題である。自身もチン州出身の少数民族であるササ氏を革命の「顔」として起用することで、共通の敵である国軍に対抗する姿勢を打ち出しながら、少数民族の支持を取り付ける狙いもある。

ササ氏はロイター通信の取材に対し、ミャンマーには「レイシズムを許す場所はない。国民を啓発する必要がある」と語っている。積極的にロヒンギャについて発信し始めているササ氏の視線の先には、クーデター後の民族や宗教による偏見や差別のない平等な社会の実現が映っているようだ。

日本でも、ロヒンギャを取り巻く動きは急速に変化を遂げている。

在日ミャンマー人市民協会理事・チョウチョウソさんと、「在日ビルマロヒンギャ協会代表」のゾウミントゥさんらが、都内で共同会見を開き、クーデターを起こしたミャンマー軍に対して共に戦う姿勢を明らかにした。

「2017年に軍隊がロヒンギャに行った虐殺が、今はヤンゴン、マンダレーなどミャンマー各地の路上で行われている」と指摘されるなか、チョウチョウソさんは「ミャンマーでの敵とは軍のことです。私たちお互いのことではありません」と述べるなど、軍事政権の弾圧に向けて共に立ち上がる結束を表明した形となった。こうした共同会見は異例ということだが、ミャンマーにおける深刻な民主主義の危機を前に、立ち向かうべき相手は一つであることが明確にされたわけだ。

ロヒンギャのスー・チー氏への複雑な反応

クーデター直後は、一部のロヒンギャから、スー・チー氏拘束に対して歓喜の声が上がったことも事実だ。コックスバザールの難民キャンプから人身売買の末、船でマレーシアにたどり着いたロヒンギャ難民男性は、クーデターが発生した当日、SNS上でスー・チー氏拘束に歓喜の声をあげた。

スー・チー氏が国軍幹部の男性と固く握手している写真をアップして、「これが悪魔と友達になった瞬間だ」とコメント。男性はその後、この投稿を削除したが、このような複雑なロヒンギャの反応は、AFP通信やアルジャジーラなどでも大きく報じられてきた経緯がある。

しかし今、国軍のクーデターを機に、ミャンマー国民らは、これまで手を取り合ってくる機会のなかったロヒンギャをはじめ、異なる民族、宗教の人々と連帯を示し、共に立ち向かおうとしつつある。ミャンマー市民による「不服従運動」は、2022年のノーベル平和賞候補にも推薦された。クーデター後のミャンマーが、さまざまな意味でより強固で成熟した国家になっていることを願わずにはいられない。

海野 麻実 記者、映像ディレクター

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うんの あさみ / Asami Unno

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやYahoo!Japan、Forbesなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは、主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題、エネルギー関連など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。

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