ドラッカーと『論語』の意外な共通点とは? 『もしドラ』ファンなら、論語にも挑戦してみよう

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それゆえ “integrity of character”の意味は、「人格の一貫性、統合、完全性、高潔さ、誠実さ」と考えるべきである。もし大学入試でこれを「真摯さ」と訳せば、間違いなく「×」をつけられる。 “character” と “of” をまったく訳していない上に、 “integrity”の訳語としても不適切だからである。「人間としての誠実さ」はもちろん正解になる。

そうすると不思議なのは、日本におけるドラッカー研究の第一人者であり、ドラッカーの著作の大半を翻訳した上田惇生氏が、なぜ「真摯さ」と訳したのか、である。『マネジメント』最初の翻訳には彼自身が参加したのであるから、やっつけ仕事で何も考えないのであれば、「人間としての誠実さ」とそのまま正しく訳したはずである。

上田氏は、わざわざこの正しい訳を棄て、「真摯さ」という訳を採用したのではないか。そう私は考えている。そこにこそ、上田氏によるリミックスの真髄がある。

そしてもし、この箇所が「(マネージャーには)根本的な資質が必要である。人間としての誠実さである」であれば、みなみは決して感動しなかったはずだ。ここが「真摯さ」であればこそ彼女は、ハラハラと涙をながすことになったのである。「真摯さ」であればこそ、300万部近い大ベストセラーになったのである。

ドラッカーの思想と強く共鳴する『論語』の思想

ここには深い理由がある。この理由を解明すると、ドラッカー思想の本当に重要な側面が姿を現す。しかもそれは、『論語』の思想と強く共鳴しているのである。というのもドラッカーの思想の全体を踏まえるなら、 “integrity of character” は「仁」と訳すべきだからである。

もし岩崎夏海氏が『マネジメント【エッセンシャル版】』ではなく、私の『ドラッカーと論語』にもとづいて『もしドラ』を書いたとすれば、みなみは、「根本的な資質が必要である。仁である。」という言葉を読んでハラハラと涙をながしたことになる。

その涙は岩崎氏が感じたという「真摯さがないかもしれないという恐れみたいなもの」からくる涙とは、まったく違う。そしてこの「仁」の思想こそは、現代日本の閉塞を打破するのみならず、全人類の苦境を救う大変なパワーを持っていると私は信じる。

それは一体、どういうことなのか。そのわけを知りたい方は、どうか本書をお読みいただきたい。

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