日本でユニコーン企業が「7社だけ」の根本原因 米国や中国にはそれぞれ200社以上存在するが

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さらに、この軌道修正力の違いは、失敗に対する包容度、および判断基準の違いとも関連しています。

日本では一度の失敗が、ブランドイメージや取引先、顧客との信頼関係に大きなダメージを与えます。「失敗コスト」が非常に高いのです。また、結果にたどり着くためのプロセスを重視する傾向があります。

一方、中国では成果主義の色が濃く、過程において失敗を繰り返しても、結果的に成果を出せれば評価されます。それが、試行錯誤しやすい環境をつくり出しているのです。

何かに挑戦して成功すれば評価されるのは両国とも同じです。これは当然ですね。しかし、挑戦して失敗した場合、そして何もしなかった場合の評価については両国で差があります。日本では何かに挑戦し、失敗した場合、マイナス評価を受けます。一方、中国では挑戦していればたとえ失敗したとしてもある程度評価されます。

逆に中国では何も挑戦しない現状維持は、「失敗」と見なされ、マイナス評価を受けます。翻って日本では、挑戦せず現状を維持すれば一定の評価を受けることができます。

このような、考え方の違いが両国の起業に大きな違いを生んでいると考えられるのです。

「PDCA」ではなく「TECA」も必要

日本では、PDCA が重視されます。慎重に計画を立て、改善を繰り返しながら事業や商品をよりブラッシュアップしていく。このスキルにかけては、日本にかなう国はないでしょう。

このスキルのおかげで、日本製品は世界一の精度を誇っているわけです。
一方、中国では、T(Try)・E(Error)・C(Check)・A(Action)という考え方が一般的と言えます。とにかくスピードとアウトプットの量が重視され、失敗をしながら学んでいく。この考え方でビジネスを進めると、最初のうちは精度が粗かったり、品質が悪かったりという問題が起こりがちです。しかし、そのスピードのおかげで資金調達などの面で優位に立つことができます。変化の激しい現代のビジネス環境で投資を呼び込むにはライバルに先駆けて事業を開始することが何よりも大切だからです。

中国にユニコーン企業が多いのは市場環境や人口が大きく貢献しているわけですが、この失敗を恐れないスピード感も大きな要因なのです。

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中国でもアメリカでも同じですが、事業が軌道に乗り成功するベンチャー企業はほんの一握りです。多くのベンチャー企業は市場からの撤退を余儀なくされます。

それでも、新たなベンチャーが続々と立ち上がるのは、彼ら、彼女らが失敗の痛みを経験しなければ、成長できないということを知っているからです。

日本でも、ベンチャー企業がスピードとアウトプット量を重視し、失敗しながら成長していくためには、一度失敗しても再就職できるよう、人材の流動性を高め、社会全体で失敗を許容、奨励する空気づくりが求められているのではないでしょうか。

王 沁 華和結ホールディングス CEO

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オウ シン / Alex Wang

中国陝西省漢中市出身。2010年に来日し、慶應義塾大学商学部に入学。在学中にコンテンツ商社「JCCD.com」などを運営する華和結ホールディングスを設立。
大学卒業後、同社を経営しながらリクルートホールディングスに入社。数多くのメインブランドのCRM、企画運営、中華圏企業との提携交渉、投資検討などを経て、プロダクト統括本部・新規事業統括に配属される。
2021年にリクルートを退社。現在は、華和結ホールディングスCEOとして、「JCCD.com」の他、AI・人工知能プラットフォームの「AiBank.jp」、グローバルタイムシェアプラットフォーム「Time-X」など複数の事業を経営し、自身の会社でアプリ開発も行っている。

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