日本郵政、「楽天への1500億円出資」にみる焦り 宅配便市場での万年3位から抜け出せるか

拡大
縮小

EC荷物をめぐる獲得競争は激化する一方だ。業界首位のヤマトは、EC事業者向け配送サービス「EAZY」を展開し、ZOZOやアスクル、ニッセンホールディングスなど大口荷主の囲い込みを急いでいる。

2020年3月、ヤマトは大手EC事業者のヤフーと業務提携に向け基本合意。商品の在庫管理なども含めて、受注から宅配までの物流業務をヤマトが一括で請け負う「フルフィルメントサービス」を出店者に提供するなど、関係を深めている。

ヤフーのショッピング統括部・事業開発室の山下滋室長は、「ヤフーにとっては配送が目下の課題だ。ヤマトに支援してもらいつつ配送品質を改善したい」と強調する。

他方、EC最大手であるアマゾンは自前物流網の構築に腐心している。同社は荷物の配送について中小配送事業者(デリバリープロバイダー)や個人ドライバーへの直接委託を進めており、日本郵便が今後、アマゾンの荷物をどこまで取り込めるかは未知数だ。

ゆえに、日本郵便からすれば、残された楽天は絶対に逃してはならない大口荷主といえる。2020年12月期の楽天の国内EC流通総額は4.7兆円。その荷物を優先的に受け入れることで、宅配便の荷物数拡大を加速できる。

DX推進の切り札に

とはいえ今回、日本郵政が投じる約1500億円は決して小さくない額だ。これに見合う成果をどう出すのかが注目される。

今回の資本提携は楽天側から打診したという。携帯事業「楽天モバイル」の設備投資に多額の資金を必要とするほか、独自の物流網整備に邁進してきた同社には、資金面・実務面の両方でメリットが大きい。では日本郵政はその見返りとして何を求めるのか。

焦点となるのが日本郵政のDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。増田社長は会見の場で「日本郵政は(DXが)遅れている部分がある。楽天にはDXの先進的な知識やノウハウがあるので活かしたい」と語っている。

例えば、物流事業では楽天が持つECの受発注データやAI(人工知能)を活用して配送需要を事前に予測するなど、業務効率化に向けた取り組みを検討している。「デジタル人材を楽天から受け入れる」(増田社長)ことも視野に入れている。遅れているDXが一気に進むのであれば、資本提携に踏み込むかいもあるだろう。

ただ、協業する事業領域と大まかな方針は決まっているものの、その具体策はまだ見えてこない。明確な成果をもって株主に対する説明責任を果たすことが、増田社長に求められる。

佃 陸生 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

つくだ りくお / Rikuo Tsukuda

不動産業界担当。オフィスビル、マンションなどの住宅、商業施設、物流施設などを取材。REIT、再開発、CRE、データセンターにも関心。慶応義塾大学大学院法学研究科(政治学専攻)修了。2019年東洋経済新報社入社。過去に物流業界などを担当。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT