もちろん、何も、人から紹介を受けるのが悪いと言っているわけではない。だが、相手をあまりよく知らないで「結婚」するのは、ギャンブルになりがちなのだ。
「ビビっと婚」で、ありがちな結末
「ビビっと婚」の結末はどうなるだろうか。例えば、ある日系の小売企業は、アジアで同じ業界のローカルなスーパーと手を組んだ。当然、同業のほうが安心だろうと、決断したのだ。だが、結果は大失敗。同じような価格帯で顧客を奪い合うことになってしまい、すみ分けをするどころか、関係は決裂してしまった。このように、同業と組む場合は、現地市場が無限ではない以上、相当綿密に設計しないと客の奪い合いになり、ケンカ別れになるケースも少なくない。
では、現地の名だたる大企業、財閥クラスと組めば、絶対安心なのだろうか?これも間違いだ。特にアジアでの現地財閥企業というのは、華僑系であることが多く、のし上がってきただけあって、容赦ない。現地財閥と組んだばかりに、技術やノウハウだけ盗まれて一方的に関係を解消されたという例も数多いのだ(企業としては、恥ずかしい話でもあるので、そうした理由は表には出ないことも多い)。
そして、こんなはずではなかった…と高い「慰謝料」(違約金や撤退費用など、もろもろ)を払って、「離婚する」(提携関係を解消する)羽目になるのである。
大戸屋の意外な「結婚」「離婚」戦略とは?
大戸屋の料理のように、素早く読者の皆様が知りたい情報を提供しなくてはならないのに、ここまで引っ張ってしまった。では、なぜ大戸屋はアジアで成功しているのだろうか?先述のように、「結婚」と「離婚」戦略を上手に行っているのが、同社なのである。
どういうことなのか?詳しく説明しよう。大戸屋は、現地に進出する際、まず、基本的には現地パートナー企業との合弁企業を作って、進出する。
例えば、タイ進出のケースをご紹介しよう。当初、合弁先の企業として手を組んだのは、同国のベタグロ社をはじめとした、現地の食材供給メーカーだった。この際、ベタグロ側が和食の要となる食材を供給し、大戸屋側は店舗を運営と、明確に役割を分担したのだ。お互い「Win-Winの関係」である。
ここまでは良くあるケースだ。面白いはその後だ。大都市バンコクで出店する際は、高級和食店としての主な出店場所である、デパート等の場所確保がより重要になる。
そこで大戸屋は、次に現地でデパートなどを運営する、大手不動産ディベロッパーグループのセントラル社と手を組んだ。出店力を持っているディベロッパーの力が必要だからだ。セントラル側にも、テナントとして競争力のある大戸屋を誘致できる意味は大きい。もっともセントラルとの関係は、ベタグロには言えない後ろ暗い「浮気」ではなく、ベタグロ側にもしっかりと説明して、筋は通したうえでのことだ。
このように、場当たり的ではなく、明確に役割分担をして、関係者がWin-Winとなる設計が、「戦略的結婚」のキモである。しかし、話はここで終わりではない。この後が、大戸屋の真骨頂だ。なんとセントラル社との「円満離婚」に成功したのである。
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