超細かなマニュアルを作成、信頼を得る
もちろん、現場はさまざまな苦労をしている。大戸屋の場合、大胆にも、進出当初は各店に、日本人のエース級店長を1店舗に1人はり付け、味やサービスを日本と同様にできるよう担保する。
しかし「エース店長をもってしても、現場は大変だ」と語るのは、立ち上げ期を担った大戸屋の前タイ法人社長、島村利美氏だ。現地のスタッフにどれだけ丁寧に伝えても、そこは、文化の違いもありすぐには理解してくれない店員もいる。
現場では刺身定食を顧客に出すとき、ワサビと山椒を間違えて、「山椒を醤油と混ぜて食べて下さい」(意外においしい!?)と客に言ってしまったり、「トンカツの揚げ時間は4分」と、口を酸っぱくして伝えたはずが、早めに揚げてしまい、中途半端なまま(この場合、再度揚げるため油がべっとりついたトンカツになる・・)といったケースがままあった、という。
そこで、同社は全メニューについて、肉や野菜の1カットごとの細かい切り方から揚げ物の秒数まで、子供でもできるようにと、他社ではありえないほど細かいマニュアルを用意した。
また、料理の肝である調味料についても、味付けをする際は、単に混ぜるだけで済むように、なんと1食単位で用意した。さらに、「現場のスタッフが食べないことには始まらない」と、従業員には1週間に1食ではあるが、大戸屋のメニューを無料で食べられるようにしたところ、徐々に成長していったという(やはり高価格なので、通常ならスタッフがお客の立場で食べるのはそう簡単ではない。だから、この措置は皆大喜びである)。
そこまでの投資をして、現場でここまでやるのは、大戸屋が、「同社の最大の競争力とは、店内で調理をすることで、日本とまったく同じ品質の味を出せること」と考えているからだ。
こうして直営からFCへの売却という流れで展開を進めてきた大戸屋だが、同社は、もちろん投資ファンドではなく、あくまで飲食チェーンだ。
「私たちは工場でつくられた料理ではなく、店内の調理で日本の味をお客様に提供することが、何より大切だと考える。だから、店内調理と大戸屋の味を守るという約束ができない企業には、たとえ他の3倍の値段を出すと言われてもFC先として売却することは決してない」(濱田専務)。
今回は筆者の経験も踏まえて、企業がグローバルで成功するための、戦略的な結婚・離婚の決断について見てきた。目先の利益だけにとらわれず、かつ自前主義にこだわらず、信念を持って急速にグローバル展開を進める大戸屋。ぜひとも、参考にしていただければ幸いだ。
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