テレビが震災特番で伝えた3.11から10年の重み 「美談」を安易に持ち出さず、外さなかった本質
スタジオでは「Nスタ」の井上貴博アナとホラン千秋さんが、「定点映像で見る被災地10年の歩み」を紹介。さらに、サンドウィッチマンの10年にわたる支援活動とインタビュー、MISIAさんが現地をめぐって被災者と交流、牛乳瓶に海産物を詰めた宮古名物「瓶ドン」での復興、迫りくる南海トラフ巨大地震と津波の脅威などをピックアップしました。
自ら「奇跡」を否定する被災者たち
なかでも目を引いたのは、震災後に口を閉ざしていた子どもたちが10年後の今、当時を語るインタビュー。家族7人を亡くした9歳少年は「震災は自分のアイデンティティーの1つとして一生残っていくんだろうなと思っています」とたくましく語り、9日間がれきに埋もれたあとに生還して「奇跡」と言われた16歳高校生は「すぐ避難できる場所にいたのにしなかったことでいろいろな人に迷惑をかけてしまい、今でも後悔していることを伝えたい」と自ら美談を打ち消す勇気を見せました。
さらに、小学生全員を避難させて命を救ったことで「釜石の奇跡」と呼ばれた当時中学生だった女性が、現在は震災を伝える「いのちをつなぐ未来館」で語り部として活動していることを紹介。女性は「ほめられるような避難をしていないし、たまたまが重なって助かっただけ。自分自身もっともっと防災の勉強をして、この町の人たちのためになる向こう10年でありたい」とコメントしていました。小学生たちが助かったのは、防災を教えてくれた教師や地域の人々のおかげであり、「美談として語り継ぐべきではない」というスタンスなのです。
この映像を受けた井上貴博アナは神妙な表情で、「“奇跡”という言葉を私自身、使ってしまうところはありますが、美談として終わらせるのではなく、やはり後悔がある。次の世代にその後悔をしてほしくないんだ……すごく響く言葉でしたね。(防災などの発信をする際は)ぜひこのテレビメディアというものも利用していただければ、と感じます」と語りました。
美談にするため、安易に“奇跡”という言葉を使って本質から外れていく。そんなメディアの悪癖に自ら斬り込んでいるところに誠実さを感じさせたのです。
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