テレビが震災特番で伝えた3.11から10年の重み 「美談」を安易に持ち出さず、外さなかった本質

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もちろん被災者の中には“奇跡”という言葉に救われた人々もいるでしょう。しかし、TBSに続いてフジテレビも、報道番組が“奇跡”という言葉を使うことの危うさを自戒するように伝えていたように、メディアが安易に使うべきフレーズではないのでしょう。

自ら語り部となる被災者たち

最後に公共放送のNHKは13時40分~16時20分にかけて、「ごごナマ 東日本大震災 あの日から10年」を放送。スタジオゲストの福島県出身・西田敏行さんがMCの船越英一郎さんと美保純さんに被災地への思いを語ったほか、宮城県名取市、福島県双葉町と中継でつなぎ、震災当時と現在の状況を伝えました。

また、14時46分以降は、「東日本大震災 十周年追悼式」の様子を他番組より長めに放送。なかでも各県の遺族代表らのあいさつをじっくり映し、最後は岩手県陸前高田市とも中継でつないだほか、視聴者から寄せられたメッセージをできる限り読みました。

番組の最後に船越英一郎さんは、「つい『10年たってひと区切りだね』なんて言葉を『軽々しく口に出してしまうことが怖いことなんだ』ということをあらためて痛感しました」と語っていました。これも各番組のスタッフにしてみれば胸が痛くなるようなコメントであり、それはすべてのメディアも同様でしょう。

ここまで各局の番組内容を見てきましたが、共通していたのは、津波の映像をしっかり見せるなど、あえて怖さや深刻さを伝えたうえで、「どこが変わり、どこが変わっていないのかをはっきり見せよう」という真摯な姿勢。震災発生から5年が過ぎたあたりから、放送時間が短くなり、取材が縮小されていただけに、今年の充実ぶりは際立っていました。

そして各番組を見て気づかされたのは、10年間という歳月の中で、それぞれの使命感から積極的に語り部になろうとする被災者の多さ。どの番組にも、「自分に何ができるのか?」を自問自答し、「思い出したくないけど、思い出さなければいけない。忘れたいけど、忘れてはいけない」という葛藤を乗り越え、「絶対に風化させない」という使命感を持った人々が登場していました。それは被災者だけでなく、報道番組の作り手たちも同様だったのではないでしょうか。

これを書くために、すべての番組を見て、正直なところ重い気持ちになりました。しかし、津波の映像や被災者の涙を見て重い気持ちになっただけでなく、今もつらい日々を送る現地の人々に思いをはせ、防災の意識が高まったのは間違いありません。3月末までTVerで配信される番組も多いだけに、見逃した人はぜひチェックしてみてください。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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