ばらまきバイデン政権の裏で起きる意外なこと 長期金利上昇やインフレ以外にも心配の種?

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ゆえに時間稼ぎのような抵抗はあったものの、本気ではなかった。3月6日には、共和党のダン・サリバン議員が身内の葬儀のために選挙区のアラスカに帰ってしまい、法案は50対49であっけなく成立した。カマラ・ハリス副大統領が「最後の1票」を行使する必要さえなかったのである。

法案を勝ち取ったのはいいが、経済効果が強すぎる?

むしろ手間取ったのは、身内のジョー・マンチン上院議員に対する説得工作だった。選挙区のウェストバージニア州は、昨年の大統領選挙で有権者の69%がトランプ氏に投票した典型的「レッドステーツ」。ゆえにマンチン氏は「らしくない」民主党議員なのである。脱炭素化政策に異を唱え、最低賃金を上げることに反対し、民主党左派の閣僚人事に難色を示す。いくら党議拘束がないアメリカ議会でも、ここまで身内に逆らう議員も珍しい。それでも「50対50」の上院では、「たったひとり」が反対すれば法案は通らないのである。

最後は、バイデン氏が自ら電話でマンチン氏を説得した。この辺り、さすがは「元・国対族」のベテラン議員である。「政策(Policy)は部下に任せても、政局(Politics)は自ら仕切る」のがバイデン政権の流儀と言えそうだ。

ともあれ、法案は成立すれば「勝ち」である。上院予算委員長となったバーニー・サンダース氏は、「最低賃金、時給15ドル」の条項が法案から切り離されたことで当初はご不満な様子であったが、ARP法成立後は「働く人々を潤すここ数年で最も重要な法律」だと自賛のツイートを発している。 

かくして政治的には万々歳のARP法だが、気になるのは経済効果が強すぎはしないかということ。何しろ今のアメリカ経済はすでに5~6%の成長軌道に乗っている。ここに1.9兆ドルの真水注入は、景気の過熱を招いてしまうのではないか。

今のアメリカでは、「外食にも映画にも行けない」人々が、ネットショッピングに精を出すからモノ消費が活況を呈している。お陰で昨年秋から貿易赤字が急増し、ロングビーチなど西海岸の港湾にはコンテナが山積みになっている。これがアジアに還流しないから、世界的なコンテナ不足が生じている。

すでにコンテナ運賃は前年比3倍に急騰している。アメリカの「巣ごもり消費」が、世界の物流を麻痺させるという恐るべき構図なのである。

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