コロナ禍の今、日本医療の特徴を考えてみる この国の医療の形はどのように生まれたのか

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新型コロナウイルス患者に対応した病院や病床が日本ではなぜ増えにくいのか。その秘密を解くカギは歴史にあった(写真:iStock/USA-TARO)

日本の医療をほかの国々と比べた特徴が、新型コロナウイルスの影響の下で注目を浴びている。日本の医療提供体制については、目下、改革が進められている。ここ数年展開されていた提供体制の改革の青写真が描かれていた『社会保障制度改革国民会議』(2013年)の報告書には、「医療問題の日本的特徴」という項目があり、次のように書かれている。

公的所有主体の欧米、私的所有主体の日本

日本の医療政策の難しさは、これが西欧や北欧のように国立や自治体立の病院等(公的所有)が中心であるのとは異なり、医師が医療法人を設立し、病院等を民間資本で経営するという形(私的所有)で整備されてきた歴史的経緯から生まれている。公的セクターが相手であれば、政府が強制力をもって改革ができ、現に欧州のいくつかの国では医療ニーズの変化に伴う改革をそうして実現してきた。
医療提供体制について、実のところ日本ほど規制緩和された市場依存型の先進国はなく、日本の場合、国や自治体などの公立の医療施設は全体のわずか14%、病床で22%しかない。ゆえに他国のように病院などが公的所有であれば体系的にできることが、日本ではなかなかできなかったのである(『社会保障制度改革国民会議』22ページ)。

この種の話では、アメリカにおいても、公的病院、および公益的な民間非営利病院は総病院数のおよそ80%、全病床数の約85%を占めているということを言うと、けっこう驚かれる。

また、2001年の総合規制改革会議における、当時、厚生労働省大臣官房審議官(医政局・保険局担当)であった中村秀一氏の「株式会社の病院というのは、世界の医療提供体制の中でごく例外的、ヨーロッパではほとんどネグリジブルでありますし、多いと言われているアメリカでも、全体の25%ということで、われわれ自身、株式会社を入れるということが、それほど医療改革につながるふうには思っておりません」という言葉も歴史に残しておきたい言葉である。官僚が忖度なく正論を言えた時代の記録でもある。

どうして日本は、医師が非営利の医療法人を設立し、病院などを民間資本で経営するという形(私的所有)で整備されてきたのか? そして、コロナ禍で注目されるようになったことだが、なぜ民間の病院は中小規模なのか? 

新型コロナの感染拡大の下、医療と経済、どちらを優先するかという問いかけがなされる中、こうした問いについて、いくつかの考える材料を準備できればと思う。ただし、文字数の制限もあるので、歴史的事実を淡々と論じるにとどめておこうと思う。

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