コロナ禍の今、日本医療の特徴を考えてみる

この国の医療の形はどのように生まれたのか

医療金融公庫があったとはいえ、「医療法」により非営利であることが規定されているために、民間病院は借り入れによる資金調達しか許されていなかった。そうした資金面からの制約によって、病院規模は中小規模でとどまってきた。先述の福永氏によれば、「今日、300床未満の病院が日本の病院数の8割強を占めている状況は、以上の戦後の病院発展におけるファイナンス面での歴史的背景の結果である」ということになる。

取り組まれている医療提供体制の改革

株式を通じた資本の供給は、医療においてはできるだけ避けておきたいという国際的にも広範囲な合意がある。ほかの先進諸国は、歴史的に、公的および慈善・宗教団体などの非営利の団体により医療提供体制が整備されてきており、医療が近代化した後も、それらが提供体制を支えてきた。

しかし日本は、非営利という条件の下に民間主体の提供体制の整備が進められた。医療法人制度、医療金融公庫という税の優遇や金利の優遇はあったが、資金は借り入れが主体となり、しかも低利借り入れの医療金融公庫には借り入れ上限もあって、大規模の病院に発展できたのはまれであった。したがって、日本では、民間の中小病院が主体の提供体制ができあがっていった。

公的医療保険と私的医療提供体制の組み合わせからなる日本では、長らく、医療改革が社会保障政策の中での最優先課題であった。繰り返し政局の混乱を引き起こしていた年金よりもはるかに重要な課題と認識されていた(「日本の医療は高齢社会向きでないという事実――『医療提供体制改革』を知っていますか?」<2018年4月21日>を参照)。

高齢化に向けた「地域全体で治し支える医療」も中小民間病院だけでは対応できないものだ(写真:ブルームバーグ)

そして今の日本では、地域医療構想と地域包括ケアは「車の両輪」であるとか、地域医療構想・医療従事者の働き方改革・医師偏在対策を加えて「三位一体改革」であると言われている。

「車の両輪」、「三位一体改革」のいずれにも入る地域医療構想とは、高齢化・人口減少に伴う医療ニーズの質・量の変化や労働力人口の減少を見据えて、質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築するために、医療機関の機能分化・連携を行っていく改革のことである。地域包括ケアとは、自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるネットワークのことである。

いわばこれらは、ニーズに見合った医療を提供し、医療の質を高めるための改革であり、この国が歴史的に形成してきた日本医療の特徴へのチャレンジであるともいえる。三位一体改革の中の医師偏在対策にしても、この国の医療政策の歴史上、ずっと手付かずのままでいた医師養成のあり方に対する大きな試みである(「日本の大学の医学部教育は何が問題なのか?――医療介護の一体改革に立ちはだかる大きな壁」<2018年12月27日>を参照)

この一連の取り組みには、地域の中での広範囲であり、かつ人口減少社会における患者減を見越した中・長期的な構想に基づいて既存の病院の選択と集中を図り、相互の連携を通じて、地域医療全体、高度急性期から在宅、さらには看取りまでのチーム医療、医療と介護を一体化した、多職種の連携による地域完結型の医療を目指そうとするビジョンがベースにある。

そうしたビジョンは、戦後形成されてきた個々の病院内で完結していた「治す医療」から、地域全体で「治し支える医療」への転換であるとも言われている。さらには、いくつもの中小の病院が競合していたのでは対応が難しい医療をそれぞれの地域で強化していく必要もある。かつての患者数、病院数の拡張期とは異なり、競争よりも協調が謳われる時代になっているのである。

今という時代は、歴史という経路に依存して形成されているものではある。歴史過程における今という時代において、根気強く継続する改革の意思が求められるゆえんでもある。だが今は、目の前の感染拡大の防止に集中しておくことが最優先されるべきなのであろう。

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