アンチエイジングに「苦痛と回復」が必要な理由 人生100年時代を健康で過ごす秘訣とは

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ホルミシスの理解を深めるために、「野菜」の事例も見ておきましょう。
野菜には、植物が作り出す独自の物質である「ポリフェノール」が含まれています。ベリー類に豊富なアントシアニンや、緑茶にふくまれるカテキンなどが有名ですが、ポリフェノールは活性酸素を取り除く働きがあり、細胞のダメージやDNAの損傷を防いでくれる、と一般的に言われています。

確かにこの話はある程度まで正しいのですが、科学の世界では、抗酸化作用だけではポリフェノールの効果をうまく説明できないことが昔から知られてきました。世間のイメージとは反して、ポリフェノールの抗酸化作用はとても低く、さらに体内に入った成分はすぐに肝臓で分解されてしまうからです。

そこで出てきたのが、ホルミシスによる説明でした。

干ばつで十分な水を得られなかったりカビが繁殖したりと、植物は日常的に多くのストレスに直面しますが、人間とは違って外敵から逃げることができません。そのため植物は、ほぼ10億年をかけて多様な化学物質を作り出すように進化してきました。

トウガラシの辛味成分であるカプサイシンは抗菌作用でカビの繁殖を防ぎますし、緑茶のカテキンは害虫の消化をブロックします。熟してない柿が鳥の襲撃を避けられるのも、タンニンというポリフェノールが渋味を持つおかげです。いずれも植物が進化の過程で備えた化学兵器であり、その本質は「毒物」だと言えます。

そして、これらの成分が私たちの体にいいのも、ポリフェノールが「毒物」だからにほかなりません。

「苦痛」を取り込むことで肉体を若返らせる

例えば、赤ワインにふくまれるレスベラトロールには、Nrf2という転写因子を刺激して体内の解毒スイッチをONにする働きがあります。本来のNrf2はフリーラジカルのような外部ストレスで活性化するタンパク質であり、これはすなわちレスベラトロールが体内で毒素として働いた証拠です。

同じように、ほぼすべてのポリフェノールは私たちに酸化ストレスを与え、体内の「炎症抑制システム」を起動させることがわかっています。炎症とは人体がなんらかのダメージを負った際に起きる反応のことで、例えば間違って指を切ったらその周囲は赤くはれ上がり、転んでヒザを擦りむいたらジクジクと液体が染み出し、頭を打ったら衝撃を受けた部分が赤くなってしばらく痛み続けるでしょう。これが炎症です。

いずれの反応も、人体のダメージを癒やすべく免疫システムが働き出した証拠で、ケガや感染を治すためには欠かせないプロセスの1つ。炎症がなければ、私たちの肉体はうまく回復しません。

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