というのも、まがりなりにも報告会を開いたり報告書を作成していればまだ良心的なほうで、ほとんどの場合は「行ってきて終わり」だからです。「現地の人の名刺ともらってきた資料、集合写真を提出して終わり」というのものが多数ありました。
「昼よりも夜の札幌」を楽しみにしていた議員団
実は、私も高校時代から再生に携わっていた東京の早稲田商店会で、他地域からの視察見学対応に駆り出された経験があります。さらにその後も、全国各地のプロジェクトで視察見学対応をしてきているので、さまざまな「問題シーン」に出くわしています。
例えば、札幌のまちづくりの視察見学などはその典型です。札幌市と民間企業などが夏祭りなどで大通公園エリアという公共スペースを上手に使って、観光客を呼び寄せ、持続的にお金を儲ける仕組みとはどんなものか。現地で見て聞いて、初めてわかることは多々あります。
私も参加して、ある地域の議員団の視察見学対応に当たっていたときのことです。視察見学が予定どおり進捗していたにもかかわらず、16時頃になると突然、議会事務局の人たちがそわそわし始めて「この後ホテルに早めにチェックインしてから予約している夜の店に行くことになっておりまして、そろそろ終わっていただきたいのですが」と耳打ちされたのです。懇親会も結構ですが、視察見学よりも夜の会が優先されるということに心底驚いたものです。
昼間の視察よりも夜の視察を楽しみにしているのがバレバレの人もいて、夜に備えて船をこいでいる人が複数。大事な話をしてくれている現場の人を目の前にしながら、しまいには「夜のほうが本番ですから」などと堂々と言い始めてしまう噴飯ものの人もいるのが、これまでの視察の定番でした。なかには宿泊先では泥酔した後に大喧嘩を始め、宿の機材などを破損する……なんてことが起きることさえありました。
それだけではありません。「視察=タダ」と思い込んでいるやからさえいます。「成功している現地」とは、皆で高いリスクを共有し、挑戦して成果を上げている取り組みが100%です。ですから、本来タダでお話する暇などなく、そもそも無理なのです。視察にかかわる人たちの時間を当てて、視察者の対応をするわけですから。
にもかかわらず、なお事前交渉で「タダにしろ」と言い続けて、断ると、当日になって「御一行様」で徒党を組んで事務所に押しかけてくる人もいたりします。議会関係者だと、現地の議会の議会事務局に掛け合って無理矢理タダにさせようと圧力をかけるような強者もいたりして、本当に困ったものです。
海外視察になるとさらに露骨です。アメリカや欧州における都市中心部再生について、学生時代に手伝いにいった際に、現地団体の方からは日本人の普段の視察者のふるまいに苦言を呈されることが多々ありました。いちばんわかりやすいのは、ニューヨーク・ヤンキースで松井秀喜選手が大活躍を始めた2003年頃です。
ニューヨークのタイムズスクエアの再生に携わっている団体を訪ねたとき、そこの副代表の方から「日本から来る人たちは本当によくわからない、ひとことも発しない人たちがたくさん来る。その後、その人たちのまちが再生したのか、まったく私たちにフィードバックがない」と言われたのです。同団体は、まちなかでの広告事業などを立ち上げ大成功していたこともあり、私は日本に戻って商店街エリアでの広告事業を仲間と立ち上げ、その報告をメールでしたものです。それだけ有益な話をしてくれる人なのに、何も質問しないのはあまりにありえません。
「松井選手のメジャーリーグでの活躍を見るためにタイムズスクエアの再生視察をセットした」とまでは言いませんが、当時も今も本質はさほど変わっていません。適当な視察というものは、日本の恥さらしにもなることはわきまえたいところです。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら