何でも入手できる米国「精子バンク」の驚く値段 家族法研究者が考える「選択的シングルマザー」
誰でも精子ドナーになれるのだろうか? そんなことは決してない。精子バンクに話を聞いてみると、精子ドナーになれる人の条件は厳しい。法律で定められた伝染病の検査のほか、自分や家族の病歴のチェックを受けなくてはならない。
さらに、身長や学歴の最低条件があり、結局、精子提供を希望する人のうち、なんと1%しか精子ドナーになれないそうだ。これは驚きの希少さだと思う。精子ドナーになれる人というのは、まさに選りすぐりの〝エリート″ということになる。
というのも、アメリカでは「精子ドナー」は大学生の割のいいバイトとして知られており、特に数多くの大学がひしめくカリフォルニア州なんかでは、希望者はあとを絶たないのだ。精子バンクによれば、当時で1回につき約100から200ドルの対価をもらって、1週間に1度(最短で3日に1度)の頻度での提供を2年くらい継続することが原則とのこと。
精子提供を受ける女性の側からすると、精子の安定供給が望ましい。妊活をはじめてから実際に妊娠するには半年から1年以上かかるかもしれない。その間にせっかく時間をかけて選んだ精子が枯渇して、イチからやり直しとなると気落ちしてしまう。
精子を提供する大学生の側からしても、大した労力を要さずに月400から800ドルの収入を得るのは“おいしい”バイトなのかもしれない。
精子の値段が一律である理由
さて、次なる調査は精子の値段だ。学業優秀、容姿端麗、文武両道みたいな条件を望めば、支払うべき金額も増えていくのだろうか?
答えは「NO」。
カリフォルニア・クリオバンクの場合には、どれほど人気のある精子ドナーでも、匿名であれば金額はすべて一律で、一単位945ドルということが判明した。もともと、精子ドナーになる時点で、厳選された「理想の遺伝子」なので、さほど人気に差がつくということもないらしい。
では、選びに選んで精子ドナーを見つけることに成功したと仮定しよう。その後、その精子を使って妊娠するという過程がある。それはいったいどんな手順で、費用はいくらかかるのだろう。
そこで私は、ボストンIVFクリニックという、ボストンでもっとも老舗の生殖補助医療クリニックにアポイントを取ってみることにした。
もちろん、病院側に必要以上に時間を取らせたり、迷惑をかけたりしてはいけないので、「情報収集をはじめたばかりで、具体的な手術の予定は立てていないと病院側に説明する」「2回目以降の予約は入れない」など、研究目的として正当な範囲に収めるように、演習担当であるローズマン先生と細かく打ち合わせもした。
当時、私が住んでいたケンブリッジからボストンIVFへと向かう。2本のバスを乗り継いで、1時間近い道のりをかけて、ようやくたどりついた先は、背の高い雑草が生い茂る郊外の荒れ地だった。