何でも入手できる米国「精子バンク」の驚く値段 家族法研究者が考える「選択的シングルマザー」
そもそも、賛成とか反対とかの前に、「選択的シングルマザー」という言葉それ自体が、私にはどこか現実味を持って感じられなかった。遠い世界の話のような気がしてしまう。その理由は、そういった選択をした知人が私のまわりに少ないからだろう。だからこそ、もっと具体的に現実的に考えてみたいと思ったのが、このテーマを選んだきっかけだった。
どういうプロセスを経るのだろう? 金額的にはいくら支払うのだろう? そういう事実を、リアリティをもって知りたい。そのための調査方法から自分で計画しなくてはならないのが、この体験学習の課題だった。はたして選択的シングルマザーが子どもを産むためには、どういう方法があるのだろうか。
この演習のクラスを担当しているミンディ・ローズマン先生が教えてくれたのは「精子提供」という方法だった。知り合いの男性から精子をもらう事例も多いが、「精子バンク」で、匿名の精子ドナーから提供を受ける場合もあるという。そこで、私は、「精子バンクから精子を買ってきてシングルマザーになる方法」というのを検討してみることにした。
最初のステップとして、精子バンクの数ある精子ドナーから好みのものを選んでみることにする。アメリカには、いくつもの民間の精子バンクが存在する。なかでも、カリフォルニア・クリオバンクやフェアファックス・クリオバンクは有名である。
精子ドナーの情報は、ほぼなんでも手に入る
私は早速、カリフォルニア・クリオバンクのホームページで、精子ドナーの検索を開始する。これが本当にすごい。身長、体重、髪の色、目の色……。どれだけ厳しい条件を入力しても、それをクリアする精子ドナーのプロファイルが並ぶ。少しお金を払えば、精子ドナーの写真だって見ることができる。ただし、サイトから閲覧できる写真は5歳くらいの幼いときの写真まで。それより上の年齢の写真は見られないのが原則だ。
成人した後の写真だと、今の時代、SNSとかで匿名のはずの精子ドナーを特定できてしまうからだ。とはいえ、大人になってからの写真が気になるのも事実だろう。フェアファックス・クリオバンクの場合は、追加のお金を払うと成人後の写真も見せてくれるという。
プロフィールには、ドナーやその家族の病歴のほか、高校や大学での成績、得意科目と苦手科目、スポーツマンタイプか、数学が得意か、メカに強いかといった情報が並ぶ。さらに「自分の性格をどう表現しますか?」「家族のなかで誰と仲がいいですか?」「自分の子どもに伝えたい教訓は何ですか?」などの質問に対する精子ドナーの答えを読むこともできる。また、スタッフと話している会話から彼の声を聴くことができる。
容姿や成績、病歴を手がかりにして、理想の遺伝子を追求することもできる。文章や声色を参考にしながら、彼の人柄に思いをはせることもできる。アメリカでは、お金さえあれば、いや、大した金額を支払わなくても、ドナーの情報はほとんど何でも手に入るのだ。
このリサーチ結果を発表したときに、ローズマン先生は「まるでオンラインデートみたいね」という感想をもらした。