気仙沼「この10年」生き抜いてきた人々の大奮闘 地域商売の正念場、好機と逸機にどう向かうか

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

なぜ、フカヒレ以外の商品開発に乗り出したのか。

「フカヒレの原料となるサメは世界中の海で獲れ、フカヒレは技術の差が商品価値を生みます。ただ、大消費地の中国で『贅沢禁止令』が発令されたり、動物愛護団体や環境活動家から、フカヒレ漁反対の動きが出たりするなど、将来の見通しが立たなくなりました。

サメの有効活用や付加価値化を進めつつ、『気仙沼らしい海産物』『山の幸もおいしい』をテーマに加え、ほかの商品を開発したのです」(同)

主力事業が健在のうちに、次世代の事業を育てようとしたのだ。

「牡蠣の生産量」は広島県が圧倒的首位だが、実は2位は宮城県。地元の特産品に目をつけ、高付加価値の商品に仕上げた。

かつては体育教師を目指し、家業に入社前はスノーボーダーとして活躍。東北で開催された競技会で優勝経験も重ねた石渡氏。未知の世界に挑む姿勢は、家業にも生きている。

「気仙沼旨味帆立とコラーゲンのXO醤」と「気仙沼完熟牡蠣のオイスターソース」(写真:石渡商店)

漁師が入港後に立ち寄る「銭湯」も復活

気仙沼市の顔ともいえる「気仙沼湾」は三陸海岸最長の入り込んだ湾だ。あまり知られていないが台風発生時の「逃避地」の一面もある。ここに漁船が逃げ込めば船は安泰で、乗組員も上陸できる。漁に出られない漁師たちの消費するお金で地元経済も潤うのだ。

2019年7月26日、気仙沼魚市場の目の前「みしおね横丁」に銭湯「鶴亀の湯」と「鶴亀食堂」が誕生した。隣接する2つの施設は「漁師への思い」が詰まっている。

「もともと『亀の湯』さんという131年続いた銭湯が、気仙沼に入港した漁師さんたちに愛されていました。それが津波で被災し、仮設場所で再開したのですが、防潮堤建設、かさ上げ工事のために立ち退きと建物の解体を求められ、2017年にやむなく廃業したのです。

2年後にオープンした鶴亀の湯はその思いを受け継ぎ、屋号も鶴“亀の湯”としました」

こう説明するのは小野寺紀子氏(一般社団法人歓迎プロデュース代表理事。オノデラコーポレーション常務取締役)だ。取材日は不在だった斉藤和枝氏(斉吉商店専務取締役)、根岸えま氏(東京出身で気仙沼に移住)とともに銭湯や食堂を運営する。小野寺氏は「気仙沼で復活を遂げたカフェ『復興10年』の奮闘」(2021年2月24日配信)で紹介した靖忠氏の姉だ。

次ページ「いちばん苦労したのはお金」
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事