まずは、実際に繁華街を歩いて、コロナ禍でもはやっている店を分析することにした。すると、「餃子の王将」が目に飛び込んできた。会社帰りのサラリーマンが1人、もしくは2〜3人で餃子をつまみながら生ビールやハイボールのジョッキを傾けているのを見た。その隣には居酒屋があったが、店内はガラガラだった。コロナ禍では居酒屋という業種そのものが敬遠されていることをあらためて実感した。
さらに、郊外やロードサイドにも目を向けると、焼肉店や回転寿司店などが賑わっていることがわかった。焼肉に限らず、しゃぶしゃぶやステーキ、ハンバーグなど肉をメインに扱う業種もお客さんで賑わっていた。が、これらに参入したとしても競合店が多いので断念した。
「焼肉店や回転寿司がはやっているのは、会社帰りに飲みに行く機会が減っている分、家族との外食にお金をかけているのだと思いました。そこで魚介を使った料理、それも干物で勝負ができないかと考えたんです。本当においしい干物であれば、お1人様あたり1000円くらいはお支払いいただけるだろうと」(堺さん)
商売は仕入先と心を通い合わせてこそ
新業態店で扱う商品は干物と、それに合うおばんざいに決まった。とはいえ、いずれも「世界の山ちゃん」では今までまったく扱っておらず、仕入れ先をイチから探すしかなかった。堺さんは全国の干物の名産地を訪ね歩き、試食を繰り返した。その中でとくにおいしいと感じたのが、静岡県沼津市のヤマカ水産と三重県志摩市のカネ角商店だった。
「いや、わざわざ産地に出向かなくても、問屋さん経由で業者を紹介してもらって、利益率やコストを考慮したうえで取引をはじめることもできます。実際に今までそうやってきました。でも、今回は味に妥協するのはよそうと。沼津のヤマカ水産さんと志摩のカネ角商店さんは、味もさることながら、社長の干物作りへの姿勢や人柄にひかれました。私自身、仕入れ先と心を通い合わせるという商売の原点に立ち返ることができました」(堺さん)
新業態店でもう1つの名物、おばんざいは、和食店で長年働いていた職人をヘッドハンティングした。お酒に合う濃い味付けではなく、鰹や昆布から丁寧にとっただしの旨みを生かした繊細な味付けにこだわった。
こうして、2020年11月、「世界の山ちゃん」旧金山店に「ひもの亭とと」がオープンした。席数は全40席で、入り口すぐにテーブル席があり、奥にはカウンター13席が並んでいる。カウンター席を多く用意したのは、コロナ禍となり、1人で食事を摂る機会が多くなったためだ。
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