相手にきっと伝わる「わかりやすい説明」5カ条 池上彰、佐藤優が語り合う「伝え方のコツ」

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佐藤:わかりやすい説明というのは、相手によってレベル感が異なる場合もありますよね。相手が持っている知識や情報量に合わせて説明するということも意識する必要があると思いますが、池上さんはどのようなことに気をつけていますか?

相手の素地に合わせて、表現のレベルを変える

池上:こちらの話を理解する素地が、どれくらい相手にあるか。ある程度の素地がある人に向かって初心者向けの話をすると「バカにしているのか」と不快に思われる危険性があるし、そこまで素地がない人に対して専門用語を多用すると「わけがわからない」と思われてしまう。これは非常に難しいところですけれど、相手の素地の整い具合がわからない場合は、こまめに相手の反応を見ながらこちらが使う言葉や表現を調整することですね。

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佐藤:少し専門的な言葉を使ったときに、相手がどのような反応をするのか、チェックするということですね。

池上:そうです。そのとき明らかにわかっていないと見て取れたら、言葉や表現のレベルを下げる。しかし厄介なのは、わかっていないのに、わかったようなふりをして聞く人です。

佐藤:口では「なるほど」「はいはい」などと言っていても、目つきやうなずき方などで、こちらは何となく「わかっていないな」と気づいてしまう。

池上:はい。しかし、「わかっていませんね」などと言うわけにはいきません。おそらく相手はプライドと見えからわかったふりをしているのだから、そこを傷つけてはいけません。では、どうすればいいかというと、「しつこいようですが、今の話をさらに詳しくご説明しますと……」という具合に、「あなたがわかっていることは承知していますが、こちらの勝手でさらにかみ砕いているのですよ」という一言を添えればいい。

佐藤:なるほど。そういう気遣いは必要ですね。ワンクッション置くことで相手のプライドを傷つけずに、こちらの意図を理解してもらえるでしょう。ニューノーマル時代の「伝え方の作法」は、これまで言われてきた「話し方」「伝え方」のノウハウ面だけではなく、相手の真意をくみ取る気配りなども含めて、多角的に人間力が試されるものです。読者が、新時代の基礎教養としての「伝え方の極意」を身に付ける一助となれば幸いです。

池上 彰 ジャーナリスト

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いけがみ あきら / Akira Ikegami

1950年、長野県生まれ。1973年慶應義塾大学卒業後NHK入局。ロッキード事件、日航ジャンボ機墜落事故など取材経験を重ね、後にキャスターも担当。1994~2005年「週刊こどもニュース」でお父さん役を務めた。2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。2013年、第5回伊丹十三賞受賞。2016年、第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。著書に『伝える力』 (PHPビジネス新書)、『おとなの教養』(NHK出版新書)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)、『世界を動かす巨人たち〈政治家編〉』(集英社新書)など。

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佐藤 優 作家・元外務省主任分析官

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さとう まさる / Masaru Sato

1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。

2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。2006年に『自壊する帝国』(新潮社)で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『読書の技法』(東洋経済新報社)、『獄中記』(岩波現代文庫)、『人に強くなる極意』(青春新書インテリジェンス)、『いま生きる「資本論」』(新潮社)、『宗教改革の物語』(角川書店)など多数の著書がある。

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