リクルートを創った天才「偉業」の影に見た脆さ

カリスマ江副浩正いなくても組織が自走する訳

大学広告というのは、新橋の近くのビルの地下室にある小さな会社だった。十坪に満たない部屋の机が六つ七つ、汚れたソファが一つと、ロッカーがいくつかあるだけだった。社員は三、四人いたろうか。にぎやかに笑ったり、しゃべったりしながら、広告を作ったり、電話をかけたり、ときどき やってくる印刷所や、写植屋の人と応対していた。雑然たる部屋の様子やーー出前の食器がその辺に重なっていたり、部屋の隅には電熱器があって、その側にヤカンと茶ワンの他に、ナベや魚を焼く網までころがっていたーー社員同士の談笑ぶりが、ちょうど大学のサークルの部屋を想像させた
(『素手でのし上がった男たち』67ページより)

高度成長期のベンチャー企業の様子が、見事に描写されている。このように、地下の小部屋を拠点としていた大学広告社の面々は、ここで侃々諤々(かんかんがくがく)と議論を重ね、会社を成長させていくのである。

注目すべきは、江副がつくった「求人広告だけの雑誌」が、インターネットがなかった時代の「紙のグーグル」だったということ。前述したように、情報を求めるユーザーと、情報を届けたい企業との「広告モデル」(ユーザーには無料)によってマッチングさせたのだ。

カリスマ性がなく、本人もそれを自覚していた

しかも江副はそうした目的を実現させるべく、自分にはない才能を持つ人材を見出し、その人を生かすマネジメントを実践した。それもまた“天才”としての一側面だったが、興味深いのは、「ベンチャー企業を率いる多くの企業家が持ち合わせていた資質が江副に欠けていた」という著者の指摘だ。つまり江副にはカリスマ性がなく、本人もそれを自覚していたというのだ。

例えばそのことを言い表す例が、側近のひとりが指摘している“若い社員に対する江副の接し方”である。

江副は自分を含めた社員に対して「こうしろ」とは言わない。社員が常々、不満を持っている事業や、自分が「やってみたい」とか「変えなければいけない」と思っている事柄について「君はどうしたいの?」と問いかけるのだ。(125ページより)

自分が意見をいえば命令と服従の関係になってしまうから、しつこく「君はどうしたいの?」と聞き、以後も「それで?」「でも、こういうこともあるよね?」と社員を誘導していく。すると、そのうち社員は、江副が考えていた正解や、それより素晴らしいアイデアにたどり着く。

次ページ「評論家」だった社員を「当事者」に変えてしまう
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