リクルートを創った天才「偉業」の影に見た脆さ

カリスマ江副浩正いなくても組織が自走する訳

そして会社をさらに大きくしようと、政治家や実業家など、日本のエスタブリッシュメントとコネクションをつくることに力を注ぐようになっていった。さらには創業メンバーたちにも知らせぬまま、通信、コンピューター事業に大胆な投資を行うようになる。

金と利権に目がくらみ、創業当時の理念を見失っていた江副の矛先は、その点を指摘した妻の碧へと向かう。大阪で会社を経営する地元の名士を父親に持つ碧は、初期リクルートを支えてきたスポンサーだった。その事実が江副の泣き所でありコンプレックスとなっていたため、痛いところを突かれると暴力へと発展したのだった。

やがて「リクルート事件」へ

「お前の実家なんて、ただの中小企業だ」
「リクルートでは5000人の従業員が俺の言うことを聞くのに、お前はどうして俺に逆らうんだ!」
事業の成功で肥大化したエゴと、強いコンプレックスが江副の中でせめぎ合い、人格を壊していく。酒の量が増え南麻布の家で暴れた。
「うおーっ!」
ある晩、したたかに酔って帰った江副は、碧との些細な口論をきっかけに、ゴルフクラブを掴んで家具や壁に殴りかかった。身の危険を感じた碧は裸足のまま外に飛び出す。
(295〜296ページより)

このように私人としては破綻していたが、経営者としては絶頂期。1985年にリクルートのグループ売上高は1300億円を超え、勢いは衰えない。江副は土地を買い漁り、銀行からの借り入れを大幅に増やし、不動産事業を拡大した。

バランスが崩れていることは誰の目にも明らかだったろうが、本人だけが自身の異常性に気づいていなかったのだろう。そして、その流れはやがて未公開株の譲渡へとつながり、「リクルート事件」が社会問題化することになる。

リクルート事件については冤罪説もあり、その詳細はここで語り尽くせるものでもないので、あえて言及しない。その“事件”についてどう感じるかは、読者一人ひとりが判断すべきだ。

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しかしそれは、私が江副を擁護したいという意味ではない。むしろ個人的には、最終的には江副に痛々しさを感じるようになった。

人それぞれ感じ方は違うだろうし、異論もあるに違いない。ましてや著者が言うように、江副浩正という人間が天才であったことは事実だろう。だが、その背後に根を張る人としての「脆さ」「弱さ」が、私には気になってしまったのだ。

ここで明らかにされている江副の功績自体は、当然のことながら注目に値するものばかりだ。それらの多くは、“これからのイノベーション”を見つけ出すための重要なヒントにもなるだろう。

ただし、それだけではなく、「人として守るべきこと」の重要性をも本書は訴えているように思えるのだ。才能を生かすためには、どんなときにも地に足をつけておかなければならないのだということを。

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