世界を旅する写真家が見た「ヒマラヤ」の正体 悪夢のような極寒や、10年に1度の大雪も降る
2013年秋、ヒマラヤのアマダブラムという山を登りに行ったのだが、登頂できずに帰ってきた。アマダブラムの標高は6812メートルである。エベレストをはじめ、近隣にそびえる8000メートル以上のジャイアンツに比べたら高さはそれほどではないものの、漢字の「山」という字にも似ているとにかく見栄えのいい山なのだ。その容姿を一度見たら誰もが登りたくなるだろう。
アマダブラムは、チベット語で「母の首飾り」という意味である。この場合の「母」は近くに鎮座するエベレストを意味しており、その名の通り、世界最高峰のそばでひときわ輝くように目立っている。人気のトレッキングルートであるエベレスト街道沿いにあって、かくいう自分も初めてクンブー谷に足を踏み入れたときから、アマダブラムに登ることは憧れそのものだった。
困難を極める登攀
ただし、簡単に登れる山ではない。歩いて地道に登れる山とは違って岩登りがメインの登攀となり、多少のテクニックを要する。困難を克服して頂きに立ちたいという欲求を持った登山者にとって「簡単ではない」ことは目的の山を設定するための大切な要素の1つだろう。
アマダブラム登山は、いわば容姿端麗で誰にもなびこうとしない異性にアタックするようなもので、その頂きに立ったときの喜びは想像にかたくない。
ただでさえ困難な目標であるにもかかわらず、ぼくは通常のルートである南西稜からではなくて、北稜から登ることを選んだ。自分がいつも参加している隊がそのルートを選んだために自分もそれに追随したまでだが、8000メートル峰にノーマルルートで登るよりもよっぽど厳しかった。どの山もそうだが、北側の斜面は日当たりが悪く、寒い。こうした環境も含め、ルート的に岩と氷のミックスクライミングが続き、つねに緊張を強いられた。
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