世界を旅する写真家が見た「ヒマラヤ」の正体

悪夢のような極寒や、10年に1度の大雪も降る

さらなる悪条件も重なった。ベンガル湾でサイクロンが発生し、例年だったら雪の降らない低い標高にまで大量の降雪をもたらしたのだ。ファイリン(PHAILIN)と名付けられたそのサイクロンは、北部インド洋で最強クラスの熱帯低気圧だった。

ベンガル湾のサイクロンは発生個数こそ他に比べて多くはないが、極めて甚大な被害を引き起こす。それが、よりにもよってぼくがアマダブラムに向かう途上で発生し、10年に一度とも言われる大雪をヒマラヤ地域に運んできたのである。

自分の技量を最大限に発揮しなければ登れないであろうアマダブラムの北稜ルートに向かおうというとき、ベースキャンプに入る直前にサイクロンがこの地域に雪をどっさり落としていったのを知って、登山が始まる前からある程度の覚悟はできていた。

悪夢のような寒さ

ヒマラヤの登山シーズンは1年に2回ある。モンスーンが到来する夏の前後、すなわち春と秋である。春は日が経つにつれて暖かくなるが、秋は遠征が長引けば長引くほど寒くなる。ヒマラヤ生活における寒さは悪夢である。暖房やストーブが身近にあるわけではなく、ひたすら寝袋にくるまるくらいしか寒さをしのぐ方法がない。

アマダブラム北稜のベースキャンプは前述したように日当たりが悪く、朝から午後2時までは太陽がテントを照らしてくれるが、きっちり2時を過ぎると太陽が姿を消し、思い出すのもいやになるような極寒に包まれる。テントに籠もってその寒さに耐え、唯一、夕食のときだけ這い出し、午後8時には寝袋に包まって再び太陽が顔を出す12時間後までテントの中で過ごさなければならなかった。

ぼくらがそうしたベースキャンプ生活をおくっているあいだ、登山をサポートしてくれるシェルパたちはルートを切り開いていった。80カ所近いポイントにスノーバーなどを打ち込んで1600メートルものロープを固定していった。

登山を開始してわかったが、このロープがなければ北稜ルートを自力で登ることなど到底不可能だった。下りも同様に、60回近い懸垂下降を強いられた。これもまたシェルパたちが張ったロープがなければかなわなかったことである。

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