保育士の「地域ごとの年収」開示が今必要な理由 「保育の質」に関わる超重要な問題だ

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一方、内閣府「幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」の2019年度調査(速報値)では、東京23区の常勤保育従事者が実際に手に取る年間賃金は約381万円(平均勤続年数7.9年)でしかない。公費上の保育士全員が対象の処遇改善費と東京都独自の処遇改善費を合わせた約517万円と比べると、その差だけでも約136万円にもなる。キャリアに応じた処遇改善が最大でつけば、差は約184万円もの開きが生じる。

この差の原因が何か、検証が必要だ。まず、賃金が低くなる正当な要因として、若い保育士が多いこと、人員体制に厚みがあることが挙げられる。

保育士の平均勤続年数

待機児童の多くが東京都内で発生しており、都内の認可保育園は2015年4月の2184カ所から2020年4月には3325カ所へと、この5年で1141カ所も増えている。新規開設した保育園には新卒採用の若手が多い傾向があり平均賃金が低くなるが、実際の平均勤続年数はどうか。

前述の内閣府調査によれば、「100分の20地域」である東京23区の常勤で働く保育士の平均勤続年数(前職が保育園などの場合、その勤続年数も含まれる)は、7.9年だった。他の地域区分の平均勤続年数はほぼ9年台で、東京23区に次いで短いのが浦安市や神戸市など「100分の12地域」の8.6年、最も長いのが「その他地域」の10.6年だった。

都市部では保育士争奪戦で新卒初任給が上昇傾向にあることや、東京23区とほかの地域ともそう大きく平均勤続年数が変わらないことから、年間100万円以上もの公費との賃金差が生じることには疑問が残る。

公定価格の賃金は保育士の最低配置基準に沿ったものであるため、配置基準以上に保育士を雇って現場に余裕を持たせる努力をしている園の1人当たりの賃金が低くなるケースもある。その場合は正当な理由だと言えるだろう。

とはいえ、東京都の監査で文書指摘を受ける半数が「保育士配置違反」というのが現状だ。筆者は東京都がホームページで公開している監査結果を調べ、2017~2019年度に認可保育園に対して行われた監査を集計すると、合計153件の認可保育園で保育士配置違反の文書指摘を受けていた。そのうち7割が23区内の認可保育園だった。

東京23区の認可保育園は前述のとおり3300カ所以上あるので、その一部の例ではある。しかし、最も高い人件費を公費で受け取りながら、人員配置はギリギリである園が23区に多いことは事実だ。

保育士の平均勤続年数もそう大きく他の地域と乖離しているわけでもないのに、実際の賃金が低いということになる。こうしたことが、地域区分の人件費がわかることで分析できるため、通知改定には大きな意義がある。

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