第一志望校に「行かない人生」その侮れない利点 中学受験「志望校に落ちた親子」が今すべきこと

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例えば、かつてこのような事例がありました。Aさんはギリギリ第一志望校に合格したものの、その学校の授業についていけずメンタルに影響が出て、このままでは継続が難しいとなって公立校に転校しました。

そうしたところ、これまで下位層と思い込んでいた自分が、公立ではいきなりトップクラスに。一気にメンタルが回復し、快活で活動的になり生徒会長も務め、その後は県内トップ高校に進学、第一志望の大学へと進学していきました。

この子の場合、私立中にいたときと公立中にいたときの学力はまったく変わりません。変わったことは、属する集団の「母体」が変わったということです。そして私立中のときは「自分はダメな人間だ」と思っていたのが、公立中学では「自分はできる人間だ」と気持ちが変わっただけです。人間は自分をどのレベルの人間なのか、どんな立ち位置なのかを規定することが極めて重要であることがこうしたケースからもわかります。

人は、心の状態が上向きだと、情報を積極的に受け取り、積極的に行動しますが、そうでないと、受動的、消極的になることが知られています。自己認識がどうであるかが、現在と未来を変えてしまうのです。

母体のレベルが下がると影響されるのか

しかし、ここである疑問がわくと思います。それは「母体の学力的なレベルが下がると、子どものレベルも下がるのではないか」というものです。

そのように考えるのも無理はありません。なぜなら、実際に下がることもありえるからです。いわゆる「周囲の環境に流されやすい」タイプだとそのようなことが起こる場合もあります。

しかし、筆者がこれまで経験してきたケースでは、周囲に流されやすいのは、その子が全体の中間ゾーンに属する場合が大半でした。上位ゾーンにいる場合は自己肯定感の方が優位に働き、自信と前向きさで母体の影響を受けにくい傾向がありました。

三島さんのお子さんの場合は、おそらく滑り止めの学校ということから、上位ゾーンに入っている可能性が高く、周囲の影響を受けてモチベーションが下がるよりも、自己肯定感が上がり、積極的になる可能性も高いと思います。もちろん、実際に学校へ行ってみなければどうなるかはわかりませんが、これまでのケースから推察するに、実際にこれは充分にありうることなのです。

子どもの精神状態や発言が今は気になることでしょうが、やがて上記のような道を辿っていくと想像してください。そうすることで、「この子にとって最適な道だったのだ」と安心した心境になることができ、そうした親の精神的安定が子どもへよい影響を確実に与えていくことでしょう。

石田 勝紀 教育デザインラボ代表理事、教育評論家

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いしだ かつのり / Katsunori Ishida

1968年横浜生まれ。20歳で起業し、学習塾を創業。4000人以上の生徒に直接指導。講演会やセミナーを含め、5万人以上を指導。現在は「日本から 勉強が嫌いな子を1人残らずなくしたい」と、Mama Cafe、執筆、講演を精力的に行う。国際経営学修士(MBA)、教育学修士。著書に『子ども手帳』『子どもを叱り続ける人が知らない「5つの原則」』、『子どもの自己肯定感を高める10の魔法のことば』ほか多数。

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